苦さ、辛さ、渋さ、甘さが組み合わさって出来る「風味」

 品質の良いエキストラバージンオリーブオイルを使いこなしていくためには、オリーブオイルの風味を的確にとらえられなければ始まりません。そしてその風味は、産地や品種によって大きく異なることはすでに説明した通りです。生産者が、どの地域の誰々、と言うことが分かって、品種もわかれば、それは風味を捉える大きな手掛かりとなりますが、少しずつ自分の感覚で風味の特徴を捉えることをイメージしてみましょう。

 試しに、お手持ちのオリーブオイルの風味を確かめてみてください。

 品質の良いオリーブオイルであれば、注いだ瞬間にすばらしいアロマが立ち上ってくることに気づかされます。このアロマこそがオリーブオイルの使いこなし術のカギを握るものです。緑のフレッシュな香りやミント、時にはシナモンやユーカリ、まだ青いトマトや緑茶のような香りが漂ってくることでしょう。あるいは、熟したトロピカルフルーツやユリの花のような香りを漂わせるものもあります。オイルによっては、酸っぱい漬物のような臭いや機械油のような臭いがするものもありますが、それらは「エキストラバージン」を偽装する欠陥オイルである可能性が高いと言えます。

風味で最も重要なのはその豊かな香り。ほんのわずかなアロマも逃すまいとテイスターは全神経を集中して香りを嗅ぎます。〈OLIVE JAPAN(R) 国際オリーブオイルコンテスト審査会〉

 アロマを十分感じたら、次は口に含んでその「味」を確かめましょう。

 「エッ! オリーブオイルをそのまま食べるの?」と驚かれるかもしれませんが、オリーブオイルは独特の風味が身上です。欠陥風味があるかどうかだけでなく、どんな風味を持ったオイルかを知らなければ、料理に合わせる手がかりもありません。

 口に含んだ時に、経験したことのないくらい苦みを感じたり、のど越しがピリピリするほど辛いものであれば、それはポリフェノール類を多く含む優れたオリーブオイルの証です。他にも、苦さや辛さは少ないけれどもまったりした甘さと絹ごし豆腐のような滑らかな舌触りを持つもの、渋柿のような渋さと甘さがハーモニーを生み出すような味を持つものもあって、本当に様々ですが、感じた風味をオリーブオイルの達人である「オリーブオイルソムリエ(R)」にならって簡単に類型化していきます。

 「類型化」といっても決して難しいことをするのではありません。オリーブオイルの風味は、「苦さ」「辛さ」「渋さ」「甘さ」の4つの味覚が組み合わさってできています。それぞれの味覚の強度がイメージできたら、油特有の滑らかさや粘りと緑のアロマなどから来る「キレ」の良さや「フルーティー」さ、そして全体のバランスやハーモニーなどを感じ、風味の印象を捉えていくのです。

 使うオリーブオイルの風味の印象がわかったらいよいよ活用法ですが、これまでオリーブオイルに関しては、その使い方に関して、いろいろなことが言われてきました。その中には完全に誤っているようなものもあって、正しく使いこなすためにはこうした「誤った常識」から解き放たれる必要があります。

 次回は、使いこなし術の奥義をつかむために、オリーブオイルの使い方の「誤った常識」から皆さんを解放したいと思います。(次回につづく)

※「オリーブオイルソムリエ(R)」及び「OLIVE JAPAN(R)」は、一般社団法人日本オリーブオイルソムリエ協会が全権利を保有する登録商標です。協会認定の有資格者のみが「オリーブオイルソムリエ(R)」を表示することを認められています。

多田俊哉(ただ としや)
日本オリーブオイルソムリエ協会 理事長。国際基督教大学及びトリニティカレッジ卒業。モルガン銀行、JPモルガン証券、大手食品商社を経て、大前研一氏主宰(株)大前・ビジネス・ディベロップメンツ設立に伴い執行役員として経営参画。2009年(社)日本オリーブオイルソムリエ協会を設立。代表理事・理事長。海外の主要オリーブオイルコンテスト審査員歴任。香川県オリーブオイル品評会審査員。日本初の国際オリーブオイルコンテスト「OLIVE JAPAN」主催者であり、日本を代表するオリーブオイルの専門家として世界に知られる。オリーブオイルビジネスの不正を暴いた『エキストラバージンの嘘と真実』(トム・ミューラー著、日経BP社)で解説を執筆。