いま、大注目のオリーブオイルを、「品質」に注目して再検証! 食のプロ、オリーブオイルのプロである、日本オリーブオイルソムリエ協会理事長の多田俊哉さんが、食卓に置かれるオリーブオイルのチェック法と活用法を解説します。

 連載終了後には、実際にオリーブオイルの「品質」と、本当の「美味しさ」を体験できるセミナーも開催!

 第2回は、品質偽装オイルの「正体」を暴いていきたいと思います。果たしてほんとうに「オリーブオイル」なのでしょうか?

発酵したりカビが生えたオリーブを平気で圧搾して作る
悪臭漂うオリーブオイル

 「オリーブオイル」と言えば、燦々と降り注ぐ太陽のもと、頬をよぎる地中海の風にそよぐ緑の果実をまっさきに連想する方も多いのではないでしょうか。農家の方々がたわわに実った完熟の輝くような果実を一粒一粒慈しむように収穫し、丁寧に手搾りで、というイメージは、オリーブオイルがすぐれた自然食品で健康効果も高いことに、まさにふさわしいものなのですが……。

 確かに、今でもそうやって昔ながらに丁寧に作られるオリーブオイルはありますが、世界で年間300万トンを超えるほどにもなった大きな需要はそれだけでは到底賄いきれません。もう少し「大量生産」的な方法を用いないと、とても足りないのです。それでも、オリーブオイルは「自然の恵み」、「搾ったままの生のジュース」のような天然産物の製品であり、値段も他の油に比べたら高いのだから、きっと丁寧につくられているのだろう、と信じたくなる気持ちはよく分かります。

 今回は、そんな「期待」と「常識」を裏切るような実態に迫りたいと思います。

日本の主産地である小豆島のオリーブ公園は、まさに地中海のイメージ。

 そもそも「エキストラバージン」を騙る、品質「偽装」されたオリーブオイルとは、どういうものなのでしょう?

 最も多いのは、収穫したオリーブ果実が発酵したりカビが生えたりしてしまっているのにそのまま搾ってしまって出来たオイル。これが、ひどい風味のオリーブオイルとなって市場に流通しています。

 生のオリーブ果実は、とても傷みやすく繊細です。そのため、品質の素晴らしいオリーブオイルは収穫してから遅くとも12時間以内には搾られていますが、何ヘクタールも広がる広大なオリーブ畑で、いち早く収穫して、即座に搾油することは、なかなか難しいことです。ですので、少しずつ収穫して、何日か分を貯め込んでから一度に搾油を行う、といったことになりがちです。あるいは、「大量生産」的な方法として、オリーブ果実の生産農家と搾油業者が完全に分業化していて、たとえば数日間の収穫分を一度にトラックで引き取って搾油する、という方法も少なくありません。

 この時、貯め込まれたオリーブの果実に何が起こるか? 水分と栄養分をたっぷり含んで熟した果実が、腐って発酵してしまうのにはそれほど長い時間はかかりません。そして、ちょっとでも腐ったりカビが生えたりした果実があれば、それはあっという間に全体に広がってしまいます。

貯蔵により腐敗・発酵が始まったオリーブ果実。

 こうやって作られたオリーブオイルは、その腐った、嫌な臭いや発酵による酸味、カビ臭さ、カビの持つ特有のエグ味などをそのままオイルの中に受け継いでしまいます。なぜなら、油は非常に臭いや味を吸着しやすいからです。

 芝を刈ったばかりのような緑の香りとスパイシーでフレッシュな風味はどこかに消え、悪臭の漂う欠陥風味のオイルは、こうした果実の腐敗やカビだけが原因とも限りません。木が病気に冒されて果実にもその病変があらわれたもの、虫に食われた果実をそのまま搾ったもの、霜の害に冒されたもの、こうしたさまざまな果実の異変が、搾られてしまうとそのまますべて欠陥オイルの原因となってしまいます。

2015.11.09(月)
文・撮影=多田俊哉(日本オリーブオイルソムリエ協会理事長)