エキストラバージンオイルはたった2割!?

 さらに、搾る工程や搾ったオイルの保管で少しでも気を抜くと質の悪いオイルが出来上がってしまいます。

 たくさんオイルを搾り取ろうとして果肉を加熱してしまったもの、タンクに溜まった澱を除去する手間を惜しんで、タンクの中の澱が腐敗発酵してしまったもの、あるいは前年かそれ以前の古い劣化したオイルを混ぜて瓶詰めしたもの、そして中には、オリーブオイルに安価な他の油を混ぜたものなど、もはや枚挙に暇がありません。

 ここまでくると、それは「手間を惜しんだ」といった次元のものではなく、悪意に満ちたものです。そして当然ですが、それらのオイルには、本来エキストラバージンオリーブオイルだけが持つすぐれた健康効果も期待できません。

搾り出された直後はきれいなグリーンでも、タンクに貯蔵すると澱が溜まる。

 では、こうしたひどい品質のオリーブオイルは、どのくらい多いのでしょう?

 店頭で販売されているオリーブオイルのほとんどに、最高品質規格である「エキストラバージン」と明記されているのを見れば、そうしたひどいオイルは少数、と勘違いしてしまいそうですが、実際は、最大生産国のスペインで作られるオリーブオイルのうち、「エキストラバージン」規格に該当するものは、たった2割程度しかないと推定されています。これは、生産量2位のイタリアや3位のギリシャでもほぼ同様と言われます。まあ、考えてみれば、最高品質のオイルばかりが作られているというのは一種の幻想でしょうが、それにしては、日本で販売されているオリーブオイルのほとんどが「エキストラバージン」というのはおかしいとは思いませんか?

 日本だけでなく、アメリカやオーストラリアなどの大消費国でも同じような状況が起こっていますが、「エキストラバージン」規格にきちんと該当するオリーブオイルの生産量よりも、「エキストラバージン」規格を表示して販売されているオリーブオイルの量の方が圧倒的に多いのです。つまり、産地から消費地に届く間のどこかで、もともとの規格グレードが変わり、どうしたわけか、勝手に「エキストラバージン」となってしまうものが多い、ということなのです。

 いったいなぜこんなことが起こるのでしょう?

 これがオリーブオイル業界に広く起こっている一般的な出来事だとしたら、まさに業界全体の信用問題でしょう。少なくとも、他の多くの食品の生産において、ここまでひどい不正のやりたい放題というのは、あまり目にしないものです。どうしてオリーブオイルだけ、こんな惨状になっているのでしょう? 品質に関する国際間の厳格な取り決めはないのでしょうか?

2015.11.09(月)
文・撮影=多田俊哉(日本オリーブオイルソムリエ協会理事長)