アキバカルチャーをまとって登場した 最強アイドル“でんぱ組.inc”の武器は

作詞を手がけたのはマンガ家の浅野いにお

山口 トイズファクトリーは、アーティストのオリジナリティを大切にして、新しい価値に挑戦していく社風なんですよ。大手芸能事務所の力を使わずに、秋葉原カルチャーを掲げて伸し上がっているでんぱ組.incがトイズというのは偶然ではないというか、納得がいくなという印象です。最近では、BABYMETALもトイズファクトリーですね。

伊藤 なるほど。でんぱ組.incを知ったのは2013年にリリースされたシングル「でんでんぱっしょん」で、運転中にはじめて聴いたんですけど「こりゃくるな！」って直感しました。そのあとYoutubeでMVをチェックしたら、パフォーマンスやビジュアル的にも彼女たちは完全にアイドルブームの“先”を行ってると思いましたね。

山口 そうですね。旬を感じ取っているというか、時代の先の空気が読めているプロデュースだなと僕も思いました。

伊藤 A面曲「あした地球がこなごなになっても」の作詞は、「ソラニン」や「おやすみプンプン」などで、若い世代を中心にカリスマ的人気の青春マンガ家・浅野いにおが担当していますね。

山口 コラボするクリエイターの人選も毎回おもしろいですよね。

伊藤 ですね。マンガ家・浅野いにおの書く詞ってどんなだろうと興味あったんですけど、上から下へ流れるような構成は単なるJポップではなく内容も詩的。どちらかというと文章的な印象だけど、彼らしい独特な世界観は感じました。曲の後半には「瞬いているツングースカ」ってフレーズがあるんだけど、ツングースカってなんだ？ みたいな(笑)。調べてみるとロシアで起こった隕石による大爆発なんですって。こういう言葉のチョイスも彼ならではのサプライズなんですかね？ 全体的にいうと、曲と合わさった彼の詞は、びっくりするほど個性的な感じは、しませんでしたけど。

山口 歌詞は良い意味で手練れだなと思いました。ここからどんな風に「妄想分析」しますか？

伊藤 明治通りから2本くらい中に入った路地を池袋方向に歩く。今日が最後の夏日になるって朝のニュースでやっていたせいか、墓地から聴こえる蝉の声がやけにもの悲しげに感じる。空は水色、フェイドアウトしていくような巨大な雲は、もう誰も入道雲とは呼んでくれないだろうね。僕の黄色いスニーカーとピンクのスカートが、午前11時の太陽に反射したアスファルト色に馴染んでいる。

 朝ご飯はちゃんと食べたし、昨日の夜はお母さんと10分電話して、おやすみもした。親友と呼べる友達も5人くらいはいるし、10か月付き合っている彼氏もいる。身体、血も肉も心臓も脳ミソも正常に動いている。だけど、心だけがOKラインを超えられず、逆上がりのできない子供のように足をバタつかせている。みんなから見たら僕がアンドリアノフだってブレトシュナイダーだってできるように見えるかもしれない。だけど、ほんとうの僕は逆上がりすらできないし、もう挑戦だってしたくない。

 悲しい蝉の声と遠くで荒川線の踏切のカンカンが交じり合う。立ちどまって下を見ていたら、首の後ろが暑くなってきた。もう……で・き・な・い・よ。夏の終わりに言ってしまいたい。

山口 今年の夏も暑かったね。

2015.09.14(月)
文＝山口哲一、伊藤涼