10月17日、フランス全土で約55万人が参加する大規模デモが起き、各地で暴動に発展した。日本でも大きく報じられているこの出来事、現地ではいったい何が起きているのか。

 フランスに半世紀以上にわたって在住する、ジャーナリストの広岡裕児氏に話を伺った(全2回の1回目/続きを読む)。※発言内容は10月22日時点のものです

» 【続きを読む】「ウルトラ左翼とギャングが合体」「ル・ペンは本当に上手い政治家」フランス大規模デモで“損した人”と、“得した人”は?


「デモが暴徒化した」は間違い

――10月17日にフランス全土で約55万人が参加する大規模デモが起き、その後、各地で暴動になっていると報じられています。市庁舎は放火され、逮捕者は2,000人を超える事態となり、日本でも大々的に報じられています。そもそも今回は、何に関するデモだったのでしょうか。

 まずデモの話に入る前に、今回はデモが暴徒化したわけではないんです。デモと暴動はまったくの別物。日本でされているような、“デモ隊の一部が暴徒化した”という報道は間違いです。その証拠に、普段は暴徒がデモの最後に現れますが、今回マルセイユなどではデモとは関係なく、午前中から暴動が起きていました。その他の地域でも、デモと同じ時間に勝手に略奪を始めていた。デモと暴動はまったく違う話だということを前提にしないと、ここ最近フランスで起きている現象は分かりません。

――それを分けた上で、まずデモのほうですが、これは何に関するデモだったのですか。

 端的に言えば、高校の現状と、物価高に対するデモです。今回のデモは、9月18日にパリ南郊外・クレテイユにある高校の封鎖抗議行動から始まりました。ここで訴えていた要求のひとつが、学校施設の改善です。フランスの高校は生徒数の増大もあって1960年代に大幅に建設されましたが、かなり老朽化しているのにも拘わらず改修が遅れている。冷房設備もなく、今年の熱波では何度も休校になりました。

 もうひとつが、教師の補充です。フランスでは現在、教師が足りなくて授業が行われないという事態が各地で発生しています。教室も、机や椅子が足りないにも拘わらず、定員以上の人間が詰め込まれたりしているんです。

 そこに、大学に入ってからのParcours sup(フランスの高等教育機関の1年目に入学するための国営の共通出願プラットフォーム)の改善・廃止、物価高などが加わって、デモがさらに大きくなっていった。2018年の「黄色いベスト」運動以降も、物価高や、今の格差社会、つまり働く人と働かずに儲ける人――例えば金融関係の人や、異常な給料をもらう大企業の社長――そういう差に対する不満が続いていました。

 大規模デモが起きたこの10月17日という日は、2018年の黄色いベスト運動が始まった記念日でもあったんです。初めは高校から始まり、それに応じて大学が封鎖し、さらに教職員組合、全国組合が入り、そして10月17日にはもともと「黄色いベスト」運動に参加していた“普通の人”も加わった。こうして大規模デモへと発展していったのです。

次のページ スラム化した高校に行きたがらない教師