赤穂市は、兵庫県の南西部、岡山県との県境にあります。いうまでもなく、忠臣蔵で有名な赤穂浪士ゆかりの地。かつて塩田がたくさんあった所で、「赤穂の塩」も有名です。

 JR播州赤穂駅からバスで約20分。赤穂温泉がある赤穂市御崎の伊和都比売神社(いわつひめじんじゃ)境内に入ると、小さな看板が置かれ、暖簾が掛かった平屋の建物があります。それが、2010年11月にオープンしたお菓子のお店「天と海と菓子と SANPOU」。神社の大きな鳥居の向こうには青い海。潮風が吹き抜け、まるでリゾート地に来たよう。

海に向かって鎮座する延喜式内社の伊和都比売神社(いわつひめじんじゃ)。
テーブル席からは海を一望できる。
オーナーパティシエの渡部桂輔さん。

 「赤穂は度々神戸から訪れてリフレッシュしていた場所。空と海の景色も素晴らしく、朝日と夕日が両方眺められる所でもあります。神社の静かな雰囲気もよく、この建物が空いていたので、どうしてもここで自分のお店を持ちたいと思って」と、ご主人でパティシエの渡部桂輔さん。

 1974年、愛媛県松山市生まれの渡部さんは実家が洋食店で、中学生の頃からお菓子屋さんになりたかったのだと言います。製菓学校を出て、神戸・須磨の『ボックサン』で5年働き、その後、宝塚の菓子店を経て、神戸の弓削牧場でお菓子作りを12年担当。

 「牛乳を搾ってチーズを製造している牧場で働いたおかげで、素材を大切にお菓子を作りたいと強く思うようになりました」と渡部さん。「自分で食材を作りたい」と、いちご農家を見に行ったりもしたのだそう。

 「添加物を使わない、滋養を考えたお菓子を意識するようになったんです」

「ぷくぷく豆富」 1個150円。

 そんな思いから生まれた”養菓子”が「ぷくぷく豆富(とうふ)」。昔ながらの本にがりと濃い豆乳で作られる赤穂の豆腐が主原料。皮にもクリームにもその豆腐を使用しています。手に持つとふわふわで、噛むとむっちりとした独特の食感。中のとろりとしたクリームは、大豆の風味と優しい甘さ。卵や小麦粉を使っていないお菓子でもあります。毎日でも食べたくなる、飽きのこない優しい味のおやつ。大好きになってしまいました。

 「お店で使っている赤穂の塩は、伊和都比売神社で良縁祈願を立春大吉日にしていただいているんですよ」と、渡部さんはにっこり。さすが神社の境内ならではの菓子店。そして、その「ぷくぷく豆富」は、2014年の「第2回地場もん国民大賞」で、審査員特別賞を受賞。”養菓子”作りに、ますます力が入ります。

2015.08.30(日)
文・撮影=そおだよおこ