神戸市兵庫区の和田岬。神戸の中心街から離れたエリアですが、ヴィッセル神戸のホームスタジアム「ノエビアスタジアム神戸」があり、えんじ色のヴィッセル神戸のバナーが商店街に揺れています。自転車が行き交い、近所の人がのんびりと路上で挨拶をかわす、のどかな笠松商店街に、2015年4月2日、小さなパン屋さんがオープンしました。手作りの「boulangerie MAISON MURATA」と書かれた立て看板とブルーのドアが目印です。

白を基調に、ドアを閉じるとブルーの扉がアクセントになる。
左から「パン・オ・カカオ」220円、「カンパーニュ」220円、「カンパーニュ・オ・フィグ」180円、「ブルーベリー・クランベリー」180円、「ノワゼット・レザン」180円。

 「和田岬においしいハード系のパンがあると評判になって、この笠松商店街までわざわざ買いに来ていただけるようなパン屋になりたい。合い言葉は『和田岬のパン屋』です」と、村田圭吾さんはにっこり。

オーナーブーランジェの村田圭吾さん。

 村田さんは、1985年、福井県出身。高校を中退して15歳で、小さい頃からの憧れだったパン屋で働き始めます。17歳で「本格的な技術を身につけたい」と神戸の『ビゴの店』に入社。働きながら「フランスでパン修業をしたい」とフランス語を学び、資金を貯めて22歳で渡仏。パリ9区の『メゾン・ランドゥメンヌ』でブーランジェとして働くことに。

「フランスでは、パンは特別なものではありません。皆が毎日食べるもの。それだけに、伝統の製法で焼かれた『バゲット・トラディショナル』が大切にされている。粉と塩と水とイーストだけでおいしいバゲットを作るには、パンの本質を知らないとできない。5年間、日々、パンを焼きながら、しっかり技術や知識を身につけました」

 2012年10月に帰国。奥様の実家がある和田岬で、パン教室を始めます。「毎日のように開講して、生徒さんにパン作りを教えながら、日本人のパンに対する嗜好を探り、様々なパンの試作を繰り返しました」。2年間で教えた生徒さんは400人にもなったそう。

おやつ系のパンも豊富。

 村田さんが「ぜひ、作りたい」と思ったのが、フランスそのものの味のパン。パリでずっと働いた『メゾン・ランドゥメンヌ』は、フランスのグルメガイドブック『ピュドロ』でブーランジェリー・オブ・ザ・イヤー・パリ、つまり「パリ最高パン屋賞」を受賞したお店。現在8店舗を展開し、今年、東京・港区麻布台にも出店。そのおいしさを、日本で入手できる食材を使って作り、手頃な価格で販売したいと、自店をオープンしてからも工夫を重ねています。

 小さなお店の什器は村田さんの手作り。「ペンキも自分で塗りました」。スタイリッシュではないけれど、「お客様に愛されるお店にしたい」との、村田さんの心がこもった内装。毎日早朝から作業をしての、焼き立てのパンが並んでいます。

店内は焼き立てパンの香りに包まれている。

2015.05.13(水)
文・撮影=そおだよおこ