驚愕のチキンを確立する黄金率の美味しさ
さて、本題に移りましょう。そのときに先輩から聞いた「すっごいタンドリーチキンのお店ができた」というお話。チキンにも目がない私、先輩が褒めそやすチキンにすっかり心を奪われてしまったのです。ふうん、高温蒸気で? ふうん、異様に柔らかいんだ……と妄想を掻き立てられたまま帰京。すると、願えば叶うものですね。なんと翌週も京都を訪れるチャンスが到来したのである! LOVE POWER恐るべし!
というわけで、もちろん私が最初にしたことは、先輩への連絡。「○日にタンドリーチキン行けます!」。先輩もびっくりのグッドタイミングで、きっかり1週間後に私はのぞみ号とタクシーを乗り継いでまっすぐそのお店「セクションドール」へ。
こちらのシェフはフレンチの修業を積んだ方で、お店はビストロ風だ。が、メニューはただひとつ。タンドリーチキンのみ。「タンドリーチキンのみ」と書かれたメニューすらもない。厳密に言うとタンドールを使っているわけではないから、タンドリーチキンではないのだが、ここでは便宜上タンドリーチキンと呼ばせてほしい。
店主が目指し、構築したのは店名の由来ともなっている「黄金率」。もっとも美しいとされるこの絶妙なバランスを目指してチキンを、その一皿を高みへと! チキンは4段階の仕込みをし、順に寝かせ、表面をパリッと焼いてから店主が考えてアイロンメーカーとともに開発したという300度蒸気のオーブンで蒸し焼きにする。さらにたっぷりと野菜を添え、パンを添え……。このお皿の上も黄金率。
「やわらかーい」という感想はあまり言わないほうがいいというのが定石だが、ここでは、ナイフを入れた瞬間に「ええっ! なにこれやわらかい!」と口に出てしまうほど、いつもチキンを切る時と違う手応えがあった。スーッとどこまでも抵抗なく続くかんじなのだ。そしてショワ~ッとチキンジュースがしみでてくる。なんだかもう、美しい、美しいよ、このタンドリーチキン!
食べてみると、たしかにスパイスを使っているのにスパイスはチキンを立て、チキンはスパイスに優雅に包まれ、まさにザ・絶妙。スパイスがひとり歩きしないのは、段階ごとに寝かせて使っているからかしら。さらにどっさりと季節の野菜が添えられており、これも大ぶりな切り方から甘さから、チキンとの相性を考えぬかれたものだ。
デザインでも物語でもそして料理でも、私は「理由があるもの」にふらふらまいってしまう。というわけで、「黄金率」という明解な美味しい理由を掲げたこのチキンにフェチっぽく惹かれている。
「リアルに計算しつくされた黄金率チキン」に、早くまた会えますように! LOVE!
Column
北條芽以のLOVEレストラン
美味なるLOVEなひと皿を求めてレストランに通う日々。
著者が偏愛する、この季節、このお店のLOVEはいったい何? あなたの次のレストラン選びに参考になること間違いなし!
2011.10.27(木)
text:Mei Hojo