マレー半島とボルネオ島北部にまたがる常夏の国、マレーシア。実はこの国、知る人ぞ知る美食の国なのです。そこでこの連載では、マレーシアの“おいしいごはん”のとりこになった人たちが集う「マレーシアごはんの会」より、おいしいマレーシア情報をお届け。多様な文化が融け合い、食べた人みんなを笑顔にする、とっておきのマレーシアごはんに出会えますよ。

地域ごとに独自の発展を遂げているラクサ

「私、ラクサが好きなんです!」と言われると、正直何と答えればいいのか困ってしまう。あなたの好きなラクサって、どのラクサですか……?

ラクサとは、サンスクリット語で“多数・幾千の”という言葉が語源と言われており、その名のとおり、多種多様な味のある奥深い料理。

 マレーシアで人気のラクサ。スパイスの効いたスープ麺で、マレー半島の北から南、ボルネオ島まで、マレーシアのほぼ全域で食べられている麺料理です。ところが、「ラクサが好き!」「私も!」という会話をしていて、それぞれ違うラクサを思い浮かべていた、というのはよくある話。

 マレーシアは、マレー系民族、中国系民族、インド系民族と、大きく三民族で構成されており、それぞれの民族のルーツから生まれた料理が咲き乱れるグルメ大国。そしてさらに! 地域ごとの特性も食文化に大きな影響を与えています。

 ラクサはその典型的な料理のひとつ。日本のラーメンが、味噌、醤油、とんこつなど、地域ごとに特徴があるのと同じで、地方ごとに味が違います。つまり、マレーシアのご当地ヌードル、それがラクサなのです。

 それではさっそく、現地で人気のラクサを地方ごとに紹介しましょう!

ラクサ界の2大人気!「アッサムラクサ」と「ニョニャラクサ」

 マレー半島の北西に位置するペナンを中心に、マレー半島北部で「ラクサ1杯!」と注文すると「アッサムラクサ」が提供されます。アッサムラクサは、魚だしの酸っぱ辛いスープ麺。と表現すると、お隣の国、タイのトムヤムクンを思い浮かべそうですが、大きく違うのはスープの食感。サバやアジなどの魚の身を細かく砕き、そのままスープに加えているので、とろっとした舌触りが特徴。そこに、みかんに似た柑橘系の果物の皮で酸味を、生唐辛子で辛味をプラスし、さっぱりとキレのあるスープになっています。

アッサムラクサの具は、ミント、パイナップル、ミョウガに似た花。そこに海老を発酵させたソースを好みで混ぜる。現地で非常に人気のラクサで、最近はペナンだけでなく、マレーシア全土で食べられる。

※4ページ目に、現地マレーシアのアッサムラクサ屋台の様子を動画で紹介しています! お見逃しなく!

日本の料理店で提供しているラクサは、このニョニャラクサのことが多い。

「ニョニャラクサ」は、世界遺産の都市、マラッカの名物麺です。辛さひかえめのココナッツカレー麺で、海老と鶏だしのスープをベースに、レモングラス、シナモンなどのスパイスをたっぷり効かせています。ココナッツミルクから出たとろみが麺にからまって濃厚な味が楽しめるのも、ニョニャラクサの特徴です。食べる直前にスダチに似た「リマウ」の実をギュッと絞れば、辛味・旨み・酸味のバランスが絶妙で、思わずスープをゴクのみ! 具は、魚のすり身、海老、油揚げ、ゆで卵、千切りキュウリが一般的です。

 ちなみに、「ニョニャ」とは、マラッカとペナンの2つの都市で育まれた文化のこと。ただラクサは、ペナンはアッサムラクサ、マラッカはニョニャラクサという2種に分かれました。

2014.12.25(木)
文=古川 音
写真=古川 音、三浦菜穂子