旅にはハプニングがつきもの

――次は『忘れられない旅の「ハプニング」部門』です。皆さんが旅行中に遭遇したハプニングを教えてください。

長塚 一昨年、マレーシアでピンクモスク(プトラ・モスク)という、バラ色がかった花崗岩で造られたモスクを見に行ったんです。首都・クアラルンプール近郊のプトラジャヤという街にあるんですが、車以外のアクセスはあまり良くないので、行きは配車アプリで向かい、帰りもまた呼べばいいやって思ってたら、スマホが全然繋がらなくなっちゃって。

倉林 ええっ、あの周辺って何もないですよね。

長塚 そうなんです。バスがあるだろうと思って、モスクのおじさんに聞いたら「こんな場所にバスなんてないよ」と言われてしまって。おじさんに一番近い駅を尋ねたんですが、歩いても到底たどり着けない距離。最後はおじさんが自分のスマホから配車アプリを呼んでくれて、なんとか一番近い駅まで行けました。

赤尾 最近は地図もアプリも全部スマートフォンで見ちゃうので、繋がらなくなったときが怖いですよね。

長塚 そうですよね。こういうときって本当に焦ってしまうから、今回「ハプニング部門」に応募してくださった人は、よく撮影されたなぁと感心します(笑)。

倉林 私も撮影できる余裕はないかもしれません(笑)。私は以前CREA Travellerで「泣かせるプラハ」(2014年冬号)という特集名でプラハを取り上げたことがあったんですが、なぜそんなタイトルにしたかっていうと、本当に泣けてしまうような取材だったんですよ。 途中でコーディネーターが降りてしまって来なくなっちゃった。

長塚 考えただけでも恐ろしい…結局どうしたんですか?

倉林 行程表はすでにあったから、とにかくライターやカメラマンと協力し合ってなんとか取材を乗り越えましたが、「やっぱつらいわ、この仕事…」みたいな。 で、「泣かせるプラハ」になりました(笑)。

赤尾 やっぱり仕事で海外に行くと、何かしら1つはハプニングがありますよね。僕はコロナ禍になる前ぐらいに、色々な都市に寄ってその地で撮影をしていったフェリーの仕事が忘れられないですね。モデルさんを連れていき、ある都市に着いたら降りて撮影して、フェリーが港を出る時間までに帰ってこなきゃいけない。

倉林 フェリー取材は結構大変ですよね。

赤尾 何都市か回ったあとに着いたサントリーニ島で、結構港から距離がある教会で撮影していたら、モデルの女性が突然ごね始めてしまって。27歳ぐらいの大人だったと思いますが、何日もフェリーの狭い空間で過ごしていたからか、人間関係のストレスなどで精神的に参ってたようです。

 とはいえ港に戻るまで時間がかかるから、あと5分で撮り終えないと、フェリーの出発に間に合わない。最終的にはみんなで説得して、彼女が関係に悩んでいたという相手とハグをさせてなんとか事なきを得て。急いで撮影して、急いで港に戻りました(笑)。

長塚 仕事だから撮影も完遂しないといけないですしね。皆さん色々な修羅場をくぐってきていますね(笑)。

突然の襲来、パンクで途方に暮れて…「ハプニング」部門の傑作がこちら

【3】忘れられない旅の「ハプニング」部門

◆優秀賞

 忘れられない旅の「ハプニング」部門、優秀賞はオーストラリア・シドニーで撮影されたこちらのkaiさんの写真です。テラスで昼食をとっていたら、突然カモメが襲来。食事どころではなくなり、逃げるように席を立った際の一枚です。

昔トンビに襲われて以来、うちの妻は極度の鳥嫌いだ。鳩だろうとスズメだろうと、近くに来るなり悲鳴をあげて逃げ惑う。そんな妻との新婚旅行での最初の食事は、オペラハウス近くのテラスでいただいたパニーニだった。
景色や海風、美味しい食事と会話を楽しんでいたのも束の間、数羽のカモメがご飯めがけて押し寄せてきた。カモメはびくびくする妻の近くばかりにやってきて、食事どころではない。
ろくに味わうこともできず残りを口に掻き込み、逃げるように席を立った。私としては面白エピソードだが、この話をすると今でも心底嫌そうな顔で睨まれる。
※応募コメントより一部抜粋。

●代表選評コメント

カモメの襲来にまつわるkaiさんの読ませる文章はもちろんですが、色や光のトーンなど、写真としてもとてもきれいですよね。撮影者さんのテラスはバタバタだけど、上でのどかに昼食をとっている人の足が奥に見える、そういう構図も面白い。 写真としてとても好きですね。(赤尾)

◆入賞①

 忘れられない旅の「ハプニング」部門、1つ目の入賞はステラさんの靴底が取れたハプニングが選ばれました。チューリッヒへと向かうプラハの空港にて、搭乗5分前に起きた出来事です。

年末年始に、夫とウィーン、プラハ、チューリッヒを巡る旅。本場のクリスマスマーケット体験と、ビール好きの夫婦としてビール巡りの旅でもありました。
ウィーンとプラハを楽しんだ後、チューリッヒへ向かう空港でビールを飲み優雅に過ごし、搭乗5分前に席を立った時……靴の底が取れました。
たまたま飛行機が遅れたおかげで、奥のゲートにあるわずかな店舗で奇跡的にブーツを発見。無事にチューリッヒへ飛ぶことができました。
※応募コメントより一部抜粋。

●代表選評コメント

これこそまさにハプニング。自分も似たようなことがあったなと思いました。靴底って、なぜかこういう時間がないときに取れるんですよね。分かりやすい構図はもちろん、搭乗時間5分前に起きたというエピソードも含め、“ハプニング”らしさがよく分かる一枚です。(倉林)

◆入賞②

 2つ目の入賞は、MMTさんのインド・ラダック地方で撮影された写真です。長い山道をドライブ中に車がパンクし、タイヤ交換を待っている間の一枚。時間が何倍にも長く感じた状況を捉えています。

ラダック地方の都市、レーを目指して最大標高7,000mを超える山道をドライブ中、乗車していた車がパンク。タイヤ交換を待っている間の一枚です。
同乗者のインド人たちは心配する素振りもなく、おやつを延々と食べていましたが、
この日中に到着できなければ、山で一晩を過ごさなければならないかもしれないという不安から、何も口にする気持ちになれず、時間が何倍にも長く感じられたひと時でした。
無事タイヤ交換が終わり、辺りがすっかり暗くなったころにレーに到着しました。
到着した瞬間、安心とともに空腹を感じ、目についたレストランに駆け込みました。気温も下がってきた夜の街で食べた、アツアツのトゥクパとモモが格別の味だったことは言うまでもありません。
※応募コメントより一部抜粋。

●代表選評コメント

撮ってる方の目線がよく伝わってくる写真で、 これもまさにハプニングですよね。じっとしてられない状況だけど、 この端っこに座って見てるだけしかできない。あまり近すぎる場所にいても邪魔になってしまう。そんな、撮ることしかできない状況と哀愁が伝わってくる一枚です。(赤尾)

◆入賞③

 忘れられない旅の「ハプニング」部門、3つ目の入賞作は、バルセロナで撮られたエレベーターのボタンの写真。ホテルの場所が分からず、近くのジムのマッチョの皆さんに尋ねたところ、一緒になってホテルを捜索。マッチョの一人がようやくホテルの小さな表示をボタン横に見つけた際の一枚です。

バルセロナ到着後、住所に行ってもホテルが見つからず、早速迷子に。恐る恐る近くにあった店の人に尋ねると、そこはジムらしい。マッチョな人が続々と出てきて、気がつけばマッチョに囲まれていました。
マッチョのみなさんと探すこと、10分。1人がエレベーターのボタンに小さい表示を見つけてくれたのが。この写真です。
「こりゃ分からんわ!」と笑って、みんなで一緒に喜んでくれました。
初めてのスペイン。現地の人々の温かさに触れ、一気にこの国が大好きになりました。
※応募コメントより一部抜粋。

●代表選評コメント

海外のエレベーターのボタンって、結構可愛いんですよね。 質感とかデザインなどが国によって違っていて、古かったりすると余計にかっこよかったりする。そんなボタンの可愛さはもちろん、マッチョに囲まれてる姿を想像したらちょっと面白い、ストーリーも含め入賞としました。(長塚)

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