和菓子に足りない感覚が、音楽だった
最初から「和菓子を広めよう」という大きな目的があったわけではない。稲葉さんは、「自分たちが楽しいことをやろうという感じだった」と振り返る。そこへ松﨑さん、木村さんも加わった。老舗や和菓子の世界に身を置きながら、全員が音楽好き。そして、自らもDJブースに立つ。こうして2016年10月、東京の新丸ビルで「アンコマンないと」は旗揚げされたのである。
そして木村さんが酒種あんぱん、稲葉さんがドライフルーツの羊羹、松﨑さんが煎餅、山口さんがもなかを携え、それぞれDJとして登場した。菓子職人や老舗の旦那衆が、自分の菓子と一緒に好きな音楽を届ける。それが「アンコマンないと」の原点となった。
では、なぜ和菓子にいつも音楽が必要となったのか。山口さんは、その理由のひとつをこう語る。
「和菓子を五感で感じるとき、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のなかで、一番欠けているのが“聴覚”だと思うんです。それを補う意味で『音楽』という存在があって、『アンコマンないと』を始めたんです」
和菓子の美しい色や形を見る。餡や素材の香りを感じる。手に取ったときの感触があり、口に運べば味がある。しかし、「菓子には音がない」と山口さんは語る。そこで音楽を足し、場を盛り上げるお酒を加えた。すると、和菓子はこう食べるものという固定観念から離れ、これまで和菓子店に入ることのなかった人も、ごく自然にもなかや羊羹へ手を伸ばす機会となった。あんこが苦手だった人にも「まあ、いいから食べてみてよ」と気軽に差し出せる。「そのひと口が和菓子を好きになる入り口になれば」と山口さんは笑う。
そんな「アンコマンないと」が迎えた10周年。節目のパーティーで、山口さんが語ったのは、意外にも音楽への恩返しだった。和菓子に足りない“聴覚”を補う存在として10年間、力を借りてきた。だからこそ、10周年を迎えて音楽への敬意を示したかったという。
その思いを象徴するのが特別ゲストの顔ぶれだ。日本のクラブシーンを牽引してきたDJ EMMA、DJ NORI、田中知之(FPM)が加わり、バーレスクダンサーのMiss CABARETTA、ドラァグクイーンのLIL’ GRAND-BITCHも登場。熊本からは高橋酒造が特設ブースを構えた。
