妊娠をきっかけに自己責任論から距離をおけた
──新作小説『悪い血』が第175回芥川龍之介賞にノミネートされました。おめでとうございます。自ら選んだ生き方や選択ゆえに、妊娠・出産に後ろめたさを感じてしまう心情が描かれています。鈴木さんにも同じような心境になることはありましたか?
ありました。今作は、割と素直な感情を小説にしようと思って書いたので。切実に自分が感じたことを書くことで、かつての私のような寝られない夜を過ごしている妊婦の方たちが少しでも救われるといいな、と。ただ、書いている時は妊婦にしか響かない作品だと思っていたので、芥川賞にノミネートされるなんて意外でした。
やっぱり私たちは自己責任の時代を生きてきたし、とくに夜の仕事をしていたこともあり、そこで受けた扱いがどんなものであれ、不満を言うことなんて許されないと思っていたんです。「これも私が選んだ道じゃないか」「私が間違っていたんだからしょうがない」と。
それは「好きでやってるんだろ」という社会の視線に傷つかないために先んじて張る防衛線でもあったのでしょう。でも妊娠がきっかけで少しずつ考え直すようにはなりました。妊娠によって起きた私の心境の変化は、私にとっては新鮮で、ある意味あまりに凡庸でダサくて、でも面白くて、ものすごく切実で。それを書き綴った小説です。
──ご自身の変化を、どこか冷静に見つめていらっしゃるんですね。
そんな時ばかりではないけど、もうこの歳になってくると日常を生きている分にはある程度自分の感情を予想できるじゃないですか。それにその予想って案外はずれない。でも今回は、40年以上付き合ってきた自分でも予想しない気分や心の動きだったので、やっぱり面白いと感じました。
20代の頃はもっとまっすぐ、降りかかってくることに対峙していたし、それをなぎ倒しながら生きてきたんですが、今は歳を重ねて、なぎ倒す自分の身体や心にも関心が向くようになったのかもしれません。
歳を重ねたことで、余裕も生まれるし、良くも悪くも「商品化」されなくなることが多いので、そこを楽になったという人もいれば、「私の魅力がなくなった」と感じる人もいる。私だって出来るならずっと元気で美しい20代でいたかったですが、歳をとることにはどうしたって抗えないので。賢くなったのか、退屈になったのかわからないけど、できるだけその変化を面白がりたいです。
