「日本の地位が低くなっている」

 有働 やっぱり部族長説、当たっている気がするな(笑)。でもなぜ色々な題材がある中で『沈黙の艦隊』の実写化を選んだんですか?

 大沢 エンターテインメントが出来ることは限られていますが、『トップガン』のようなド真ん中のエンターテインメントで米海軍の志願者が激増したというのを聞いて。映画を観て単に「格好いいなー」ぐらいの感想を持ってもらうだけでも、何かのきっかけを作れるなら、やる意味があると思ったんです。その先は、メディアとか防衛省の皆さんが本格的な議論をするところへバトンタッチしていければと。

 有働 社会に問いかけるテーマをやりたかったということですか。

 大沢 ええ、日本の現状に思うところがあったんです。僕が90年代にドラマ『劇的紀行 深夜特急』(テレビ朝日系)で世界中を回った時、どの空港にも日本のブランドの看板があったんです。でも徐々にアジアの別の国の看板に変わっていって今はほとんど見かけなくなった。

 有働 たしかに……。

 大沢 経済的にも文化的にも日本の地位が低くなっているという問題意識が積み重なっていく中、アメリカや中国、防衛の問題をテーマにするのはアリだよなと。説教臭くなく、エンターテインメントでドキドキワクワクする。しかも主人公が正義の味方なんだか、テロリストなんだかよくわからない物語で。

 有働 そうですよね。大沢さん演じる海江田は艦長としての才能はあるけれど、どこか不気味で、でも乗組員たちに尊敬される魅力もある。

 大沢 主人公像が時代に合っているというのも企画がスタートした大きな理由かもしれません。昔ならスーパーマンみたいなヒーローが世直しをする物語をみんなが求めていた。でもそんな正義のスーパーヒーローはいないと世界中が気づいた結果、『ダークナイト』や『ジョーカー』みたいなダークヒーロー映画に若者が惹き付けられるようになった。今回の作品は海江田という、原潜を持ったお世辞にもスーパーヒーローとは言えない主人公を「何とかして抑えろ」と各国が右往左往する話。純粋にエンターテインメントとして楽しいし、その方が多くの人の心に届くかなと思いました。

※この対談の全文(約8300字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(大沢たかお×有働由美子「日本の実写映画の多くは、合格点を低く設定しすぎている」)。全文では、下記の内容をお読みいただけます。
・“感動産業”の役目
・ゴミ箱を蹴飛ばす新人だった
・満足した作品はない
・2年間の活動休止
・好きな女性のタイプは?

2025.10.06(月)
文=大沢たかお、有働由美子