総勢13人のお笑い芸人が本当にあった怖い話を語りおろした、異色の怪談アンソロジー『芸人怪談 怖い寄席』(ヨシモトブックス)。辞書のような分厚さ、装丁の不気味なギミック、芸人ならではの濃厚すぎる内容は、タレント本の域を超えています。

 語り部のひとりであり、怪談界のイケメン枠としても人気上昇中の西田どらやきさんに、本作の楽しみ方や語りきれなかったエピソードを聞きました。


会社の寮で初めての霊現象に遭遇

――芸人さんの怪談本はいまや珍しくないですが、13人分の語り下ろしを収録したボリューム感は、かなりインパクトがありますね。読書体験でありながら、お笑いのプロならではの絶妙な間やツッコミ、息づかいまで感じられるようでした。

 僕も楽しく読みました。普段から怪談界隈で活躍されている方はもちろん、蛍原(徹)さんのように怪談のイメージがあまりない方の話も収録されていますし、最凶クラスの体験を持つガリガリガリクソンさんの話をまとめて読めるのも嬉しかったです。

 そのほかの芸人さんの話も、「一度だけ、テレビで話した怪談」みたいなレアな話から、タケトさんが逃亡中の福田和子(「松山ホステス殺害事件」の指名手配犯)に出会った話のような“名作”までたっぷりと収録されていて、読み応えのある1冊になっていると思います。

――今回の本でも触れられていましたが、西田さんが初めて霊現象に遭遇したのは22歳のとき。芸人養成所に入る資金を貯めるために働いていた会社の寮だったそうですね。

 はい。昔から怪談やホラーは好きだったんですが、僕自身はもともと霊感体質でも何でもなくて。「本当に幽霊がいたら怖いな~」くらいの感じで大人になったので、いざ目の当たりにしても理解が追いつかないというか、簡単には受け入れられなかったんですよね。

 もう完全に「(幽霊らしきものが)出ている」「確実にそこにいる」という体験は、そのときが初めてだったので。「気のせいやろ」から始まり、「疲れてるんかな」「まさか?」を経て「ホンマにいるやん!」となるまでのグラデーションを、あの寮でひと通り体験しました。

 僕のYouTubeチャンネル(西田どらやきの怪研部)に寄せられるエピソードでも、「大したことではないのですが」「気のせいかもしれませんが」と前置きする方が多いんです。でもそれがリアルな感覚なんですよね。初めての霊体験なんて、確信が持てないのが普通なんだと思います。

ホラーコンテンツに恵まれた幼少期

――今のような怪談ブームになる前は、不思議な体験を口にしても笑われたり、打ち明けにくい空気がありましたよね。

 そうですね。でも、僕の子ども時代って、1990年代の「学校の怪談」ブームと重なってるんですよ。書籍、テレビ、映画でも、ホラーコンテンツには事欠かない時代で、子どもたちの間でも大人気でした。

 特に印象的なのは、池乃めだかさんがストーリーテラーを務めていた関西テレビ版の『学校の怪談』(※)。子ども向けのドラマですが妙にクオリティが高くて。僕はまだ小さかったので内容はほとんど覚えていないのですが、「ものすごく怖かった」ことだけは覚えています。

※清水崇、矢口史靖、黒沢清、中田秀夫、鶴田法男など、ホラー作品で有名な映画監督や、脚本では『リング』シリーズの高橋洋、『ほんとにあった怖い話』の小中千昭も参加していた伝説のドラマ。

 原体験という意味では、「まんが日本昔ばなし」(TBS系)。たまに怖い回があるんですよね。昔ばなしって、お化け、妖怪、人怖(ヒトコワ/結局、生きた人間がいちばん怖いという話)まで、ひと通り揃っていますから。そうやって、知らないうちに怪談やホラーの洗礼を受けていたんだと思います。

2025.09.30(火)
文=伊藤由起
写真=佐藤 亘