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「自己肯定感」というキーワードへの違和感

――坂口さんは心地よく過ごすための、ネガをポジに転換する技をたくさんお持ちです。怒りをぶつけてくる人に対しても、「暴力を振るったり傷つけるような人は、きっと寂しくて苦しい人なんだと思う」とおっしゃって、大人だなあと思いました。

 それは私なりの反抗心なんですよね。そんなことで自分の幸せや、心地よい時間をかき乱されてたまるか! という「抗い」です。

 誰かにされたことで悲しくなったり、虚しい気持ちになったり、何も手につかなくなることはもちろんありますけど、そうしていること自体がもったいないと思ってしまう。そこも「らめ活」ですね。「そういう人もいる」とあきらめて切り替える。

――近年、「自己肯定感」が重視されて、それがないといけないと強迫観念を抱く人も少なくありません。坂口さんの「自己肯定しなくても、自己認識でよいのではないか」という意見にはハッとさせられました。

 もちろん、自己肯定できたら最高ですよね。でも、自分の全てを肯定していいのか? 時には疑わなければいけないのでは? とも思います。

 私は自己愛はありますが、別に自分の全てを肯定しなくてもいいと思っています。いいところは肯定し、イケてないところも認識する。

「ここが苦手なんで、お願いします」と誰かに助けを求めていいんですよ。人に迷惑をかけずに生きるなんて無理だから。それぞれが、それぞれの得意分野を担って補い合うのが社会だと思います。

 私なんか、一人で生きていくのは到底無理で、添木のようにたくさんの方に支えてもらって、やっと生きているようなものですから(笑)。

――ちなみに、坂口さんの苦手なことを一つ挙げるとしたら何ですか?

 ……(小声で)掃除?

 今回、私の部屋を撮影していただいたんですけど、前日は半泣きになりながら片付けていました(笑)。整理整頓が苦手ですね。

――最近は何事も「自己責任」と、誰にも頼れず孤立する人が多いので、坂口さんのように距離を保ちながらも、たくさんの人とつながるのは素敵ですね。読者とも緩やかにつながっているように見えます。

 それも、最初からできていたわけではなくて、トライ&エラーの積み重ねでした。

 でも、結局は自分のスタンスが大事なのかなと思います。相手に対してどういうスタンスでどういう表情でどうコミュニケーションを取りたいと思っているのか、自分から提示していかないと相手の心は開かない気がします。

 世の中にはいろんな人がいますから、ある種、適当でいいと思うんですよね。

――なるほど。

 私は「適当」という言葉が大好きなんです。それは「気を抜く」という意味ではなく、適した行動を選ぶということ。この人にはあまりグイグイ行かない方がいいとか、この人にはこの話題を振らない方がいいとか。

 会う回数も関係ないと思います。私は親友のおりんちゃんと10数年会っていませんでしたが、久しぶりに会ったら、「今、会うべくして会った」と思えました。

 共有した時間は宝物。それさえあれば、しょっちゅう会えなくてもお互い自信を持っていいと思います。タイミングというのがありますから。

 無理にずっと関わり続けようとすると疲れてしまいますし。今、会う気分じゃないなと思ったら、「ごめん、忙しくて」と嘘をついて断ってもいいと思います。大切な相手でも、全てを曝け出さなくてもいい。

 自分を保つため、自分が心地よく生活できるよう軸を持っていないと、人に合わせてばかりいたらグラグラになっちゃうから。それぞれが自分らしく踊れる「ちゃ舞台」を持っていたらいいんじゃないかなと思います。

――坂口さんの今後のビジョンは何かありますか?

 「らめ活」を経て自分の色もわかり、自分を保って、いい感じにおどれているので、今度はみんなでおどるためにどうしたらいいんだろう? と考えています。まずはちゃ舞台をダイニングテーブルにしてみる? とか。みんなでテーブルを大きくしていって、日本にちゃ舞台、地球にちゃ舞台みたいな?(笑)

 そうしてみんなが、心地よくおどれるような世界になったらいいなと祈っています。

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今日も、ちゃ舞台の上でおどる

定価 1,870円(税込)
講談社
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坂口涼太郎(さかぐち・りょうたろう)

1990年生まれ、兵庫県出身。俳優、シンガーソングライター、ダンサー。2007年、森山未來主演・演出のダンス公演『戦争わんだー』でダンサーとして初舞台に立つ。2010年『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』で俳優デビュー。主な出演作に、連続テレビ小説「おちょやん」(20年)、「らんまん」(23年、ともにNHK)、映画「ちはやふる」シリーズ(16~18年)、映画『アンダーニンジャ』(25年)など。舞台では木ノ下歌舞伎で多く活躍。今年はKAAT神奈川芸術劇場プロデュース音楽劇「愛と正義」に出演し話題に。「ソノリオの音楽隊」(E テレ)ではダンサー兼振付師として出演。現在ドラマ「愛の、がっこう。」(フジテレビ)に出演中。

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2025.08.04(月)
文=黒瀬朋子
写真=平松市聖