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梅ボーイズの強みとは?

――実際に就農してみていかがでしたか?

 農家って、人手が足りないイメージばかり先行していますが、実は急に「農業やりたい」と思っても、なかなか参入が難しい業界なんです。

 だいたいは家業として家族で経営していますし、農地は親族の誰かが継いでいくことが多く、よそから来た新しい人を受け入れる体制がない。当たり前ですよね。先祖代々受け継いできた財産ともなる農地を、急に入ってきた人に譲るのは難しいです。

 ただ、そうなると、新規で入りたい人は農地を買い取るしかなくなってしまい、莫大な初期費用がかかります。働き手ひとりあたり1000万円くらいはかかるイメージです。また、運よく借りられる農地があったとしても、たとえば梅なら出荷できるまでに7年くらいはかかってしまう。そういう、いろいろな障壁があって。

――つまり、7年ものあいだ収入がないまま、農地を育てなくてはならない、と。

 そこも参入しづらい部分なんですよね。

 就農支援をはじめたのは、梅が大好きで梅農家になりたいという方との出会いでした。もともとこの地域の梅農家に雇われて仕事はしていたんですが、それでも借りる農地が見つからないと。僕も農地を探すサポートはしたけど、やっぱり見つからなかった。そこまで経験を積んだ人でも、いざ始めようとなると難しいというのが現状なんです。

 それで考えたのが、僕が会社として農地を購入する、という方法。そうすることで、就農の敷居を下げられないかなと思ったんです。農業を実践してもらいながら少しずつ彼らにステップアップしてもらい、いずれは独立することもできる仕組み作りをはじめました。

 まだはじめて2年目ですが、土地は購入して増やしています。増やしても、収穫できるようになるまで時間がかかるので、育てているという状況です。まあ、正直借金が膨らむばかりで(笑)、こんなリスキーなこと他に誰もやらないとは思うんですけどね。

――梅ボーイズに参加する人もどんどん増えているのでしょうか。

 そうですね。ご応募はたくさんいただきますが、採用活動は結構シビアにしています。試用期間で終了することもありますし、キャリアアップのためのステップもしっかり踏んでもらいます。農園長になって売上なども見られるようになったら、利益の何%かを還元していく。会社と同じです。

――どんな方が梅ボーイズになったのでしょうか。

 いま梅ボーイズに参加してくれているメンバーは、もとは公務員だったりラッパーだったりエンジニアだったりとさまざまな背景がありますが、共通するのは「梅が大好き」ということ。各々が多岐にわたるスキルを持っているので、自分だけじゃできなかったことも形にしてくれたりと、かなり助けてもらっています。

――農家さんの採用の印象って、家族のような存在の従業員で、来てくれるなら誰でも大歓迎、という感じなのかと思っていました。

 働き手が必要なので、もちろんそういう場所もたくさんあります。でも安い時給で社会保険はないし残業代はつかない、というのが実情です。だからこれまで新たな改革が生まれなかったのかもしれません。

 農業は家族経営がほとんどですし、それが悪循環につながっているところもあるとは思います。“農家(一次産業従事者)でもちゃんと稼げる”それを体現するために、日々奔走しています。

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山本将志郎(やまもと・しょうしろう)

梅ボーイズリーダー。1993年生まれ。実家は和歌山県日高郡みなべ町で120年続く梅農家。兄の一言がきっかけで昔ながらの酸っぱい梅干し作りを始め、2019年に梅干し屋「うめひかり」を開業。梅の魅力やレシピを伝えるYouTubeチャンネルが好評。「一次産業従事者も稼げるようにする」を目標に、林業や梅以外の作物を育てるなど、活動の幅を広げている。初の書籍『まいにち梅づくし生活』(ワニブックス)も好評発売中。
YouTube  @umeboys1904
Instagram @umeboys

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2025.07.11(金)
文=吉川愛歩
写真提供=うめひかり