この記事の連載

 昔ながらの酸っぱい梅干しが危機にある……その現実を知り、一念発起した山本将志郎さん。歴史的な梅の不作に直面しながらも、梅そのものの美味しさ、素晴らしさが忘れ去られないよう、SNSなどを通じて発信を続けている。

 そんななか、同じ農業従事者との対話で気付かされた自然の循環とは?

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農地は山から。どんぐりを植えて25年後に収穫する、山再生プロジェクト

――山本さんはご自身の梅農家だけでなく、地域全体への活動もなさっていますよね。

 そうですね。この地域だけではないのですが、ご存知のとおり就農する人は明らかに減っています。そうなると耕作放棄地といって、元は農地だったけれど何も栽培されていない土地というのがたくさん出てくるんです。それも平面で農業がしやすい土地ではなく、傾斜のある土地ばかり。

―― 急斜面での農作業は大変そうですよね。

 収量も1/2くらいになってしまいますし、作業も大変です。そうなるとどんどん手放されていって、開墾したはずの土地が荒れていく。すると、山全体として見たときに、“山の力”が弱っていってしまうんです。

 山の貯水力が弱まると、長期的に見たときに、当然ふもとでの梅栽培にも影響が出てくるのではないかと思っています。水ってとても大切なので。

――そんな難しい土地を買い取っていらっしゃると聞きました。

 そうです。今はその土地にウバメガシという、紀州備長炭になるどんぐりを植えています。備長炭になるまでには25年かかるんですが、25年たてば地域の特産物としてPRできますし、択伐しながら山を育てていけるかなと。

――山本さんはどんどん思いを行動に変えていらっしゃるんですね。

 そんなことないんですよ。ウバメガシのことも、4年はかかりました。やっと実現したので、ここからしっかり育てていきたいですね。

2025.07.11(金)
文=吉川愛歩
写真提供=うめひかり