「違うな」と思ったらやめて、「いいな」と思ったらやればいい
糖質うんぬんだけでなく、がん患者になると「あれをやっちゃダメ」「これしたらいけない」があっちこっちから飛んでくる。
「怒ってばかりだから、がんになった」
「がんになったのは、日本食以外も食べているから」
飛んでくるたびに翻弄されることはないけど、自分のやることに一瞬「いいんだろうか?」と戸惑うことはときどきある。

私はしょっちゅうリンパマッサージに行っていたけど、今回のがんでリンパにも転移したので、なんとなく「揉んじゃったら進行しちゃうのかな」と思った。先生に「食べていいもの、ダメなもの」を聞いたついでに、これについても話をした。
「先生、リンパをマッサージして老廃物を流すと体にいいって言われてるじゃないですか。でも、触ったりしたらマズい気がするんですけど」
「アンナさんの場合は、術前になにかをしてはいけないということはありません。でも、自分が受けて『違うな』と思ったらやめてください。『いいな』と思ったらやればいいんです」
この答えも私の価値観にマッチしていて、思わず「ですよねぇ!」と大きな声で返してしまった。食事も治療法も、すべてにおいて「違うな」「いいな」のどちらかで選べばいい。自分で決めることだから、それを誰かに勧めたり、ダメ出しすべきじゃないと思う。
ひっきりなしにやってきた自由診療の提案
でも、がんを公表してからは「これ、どうです?」「やってみませんか?」と自由診療の提案がひっきりなしにやってきた。

「1クール400万円なんだけど、タダにするから。アンナちゃんを助けたいんだよね」
提案のほとんどが免疫治療のクリニックからで、誘いのセリフもだいたいがこんな感じ。
いとも簡単に400万円がタダになる時点で、「どんな治療なの?」って首をかしげたくなる。「アンナちゃんを助けたいんだよね」という言葉とは裏腹に、その治療法やクリニックの宣伝になることを見込んでいるのも透けて見える。
「いりません。そういうのやめてください」
こうしたお誘いは、キッパリと断ることにしている。私にだけそんな話を振ってくるならまだしも、ママを狙ってくることも多いから悩ましい。というか、腹が立ってくる。
そのクリニックの人は、「アンナさん、ちょっとだけでいいから聞いて」としつこくしてきたけど、私が耳を折りたたんでいるんじゃないかってくらい話を聞こうとしないものだから、「本人じゃ、らちが明かない」とママのもとへ。
2025.07.09(水)
文=平田裕介