バンライフを終え養鶏家としての第一歩を

――バンライフに区切りをつけたのは、なにか理由があるんですか?
最初から、2025年の4月ごろには就農しようと決めていたんです。ただ、どこで、どんな形でということは決まっていなかったので、バンライフと農家めぐりはそれを探す旅でもありました。
そんななか、佐賀の本間(農園)さんが声をかけてくれたんです。本間農園では旅に出る前の4カ月間、同じ釜の飯を食べさせてもらい、第2の実家のような場所になっていました。だから雇用関係になるというのはちょっと違うかなという感じだったのですが、本間さんご夫婦も、移住・新規就農で苦労してきたので、「僕らにできることがあればサポートするよ」と言ってくださって。

農地の取得や機械のこと、飼料についても、できるだけサポートすると。本間さんのほうでも私にSNSまわりのことを頼みたいからと言ってくれましたが、私のほうが圧倒的にもらうものが大きくて。まったく別のブランド、別経営で、協業できたらいいねと言ってくれました。ありがたかったですね。
バンライフを続けながらいくつかの移住候補地と比較検討し、去年の秋くらいに「お願いします」と、お返事しました。やりたいことが実現できる可能性がいちばん高い場所が、本間農園がある佐賀県の脊振町だと思ったのと、最後の決め手は直感で。引っ越す前にトラックの準中型免許も取り、就農の準備をしていった感じです。
――今はどんな暮らしをしているのですか?
5月に佐賀に移住して、1年間は研修期間ですね。補助金を受けたいので農業収入は得られないのですが、本間農園で研修させてもらいながら、新規就農のための講座を受けたり、鶏舎の準備などもできたらいいなと思っています。実際に養鶏を始められるのは早くて来年の5月ですね。
――自分の養鶏場のビジョンはかたまっていますか?
平飼いはもちろんですが、規模的には、これまで50前後の養鶏場を見てきた経験から、400羽くらいがちょうといいのではないかと思っています。一般的にはマックスで1人1000羽と言われているのですが、1日中農業に従事する時間にはしたくなくて。
そもそも私は、ひたすら鶏と向き合い、いい卵を作ることだけに情熱を注ぐといった職人気質ではないと思うんです。その点ではたぶん、どれだけ頑張ってもベテランの養鶏家さんにはかなわない。
だから400羽くらいの小規模にしておいて、イベント出店で卵サンドや卵かけご飯を出したり、SNSでの発信、ライブ配信などもしながら、複合的にやっていけたらいいですね。私が売るべきは、“驚くほど美味しい究極の卵”ではなく、“私と鶏のストーリー”。そのぶん、ブランディングはしっかりしていかないと、と思っています。
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田中麻衣(たなか・まい)
東京都生まれ。大好きな卵かけご飯の記録をインスタグラムに上げ、間借り店舗やイベントなどで卵かけご飯を提供するかたわら、各地の養鶏所を訪ね歩き、住み込みで働く。軽トラの荷台にDIYで“小屋”を建てバンライフ(車を中心に移動しながら生活する新しいライフスタイル)を楽しみながら全国の農家を巡ったのち、養鶏家の夢を実現すべく、今年の5月に東京から佐賀に移住して1年間の研修期間に突入。来年には自身の養鶏所をスタートさせる予定。
Instagram @piyopiyo_vanlife @tkg_world_

2025.07.04(金)
文=伊藤由起
写真=釜谷洋史