養鶏修業の前に、憧れの“バンライフ”を決行

――養鶏家になると決め、でもその前に実行したのが全国を車中泊しながら巡る「バンライフ」。詳しく聞かせてください。
養鶏家という目標が具体的になっていくなかで、その前に「旅」に出たいと思うようになりました。畑や田んぼなら農閑期もありますが、生き物は365日待ったなし。お世話になった養鶏場の方からも「旅行には行けない」と聞いていましたから。
それとは別の話ですが、私は大学では建築を学んでいたんですね。その関係でキャンピングカーの会社に出入りしていたことがあって、“バンライフ(バン=VANを生活拠点として、車で旅をしながら生活するライフスタイル)”という生き方を知り憧れていたんです。余生の楽しみに取っておいても実現できるとは限らないし、だったら今、やろうと思って。
福岡の皆さんとは一旦お別れして、本間さんのところで4カ月くらいかけて軽トラの荷台に寝起きできる小屋を作りながら、養鶏の仕事を手伝いました。

――そして1年超のバンライフがスタートしたわけですね。
最初は普通のバンライフをイメージしていたのですが、ただ旅をするだけでは面白くないなと思って、その次のことに繫がるよう“農家さんを巡る旅”をテーマにしました。紹介や、WWOOF(ウーフ)というプログラムを利用して、数日から1週間くらいの単位で、農家さんと生活をともにしながら農業を手伝うという生活を続けました。
――WWOOFは、有機農業や自然と関わる活動をしているホストと、ざまざまな体験をしてみたい人=ウーファーをつなぐ会員制のプログラムですね。労働力を提供する代わりに、食事と宿泊する場所が提供される。
はい。世界的なプログラムなので、利用者も海外の人がけっこう多いんです。旅行するほどのお金はないけれど、日本に興味があって、観光地というより昔ながらの日本らしい暮らしが知りたいとか、日本人と仲良くなりたいといった人が登録しているイメージ。
ホスト側も、外国人も含めいろいろな人とコミュニケーションと取ったり、おもてなしを楽しんでいる方が多いので、私もアポイントが取りやすかったです。大人の社会見学としてもおすすめですよ。
――定住しない生活は自由なだけに不安要素も大きいように思いますが、途中でしんどくなりませんでしたか?
“夢のバンライフ”とはいえ、私が作ったのはキャンピングカーというより、軽トラの荷台に素人が作った掘っ立て小屋。土砂降りになると壁を伝って水が入ってくるし、トイレは道の駅、お風呂は銭湯っていうのも、たまにならいいけど毎回となると確かにものすごく面倒です。でも、そうしたデメリットより、いろいろな人との出会いや体験といったメリットのほうが大きかったんですよね。それも実際やってみたからこそ、わかったことです。
2025.07.04(金)
文=伊藤由起
写真=釜谷洋史