完璧に“設計”された事故で、誰にも気づかれないまま殺人が実行されているとしたら?

 映画『プロット 殺人設計者』は、偶然の事故に見せかけて標的を確実に始末する“殺人設計者”たちの物語。香港映画の話題作『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(24)のソイ・チェン監督が2009年に手がけた『アクシデント/意外』(主演ルイス・クー)を原案に、物語の舞台を現代の韓国へ置き換えたリメイク作品である。

「いつかリメイクしてみたい」と語っていたイ・ヨソプ監督

 原作はストイックで淡々とした作風の犯罪劇。かたや本作は痛快なクライム・エンターテインメント仕立てだが、やがてハードな心理スリラーに反転する。現代の政治不信やSNS文化、陰謀論なども巧みに取り込んだ、韓国映画ならではのスリリングで切れ味鋭い一作だ。

 監督は『犯罪の女王』(16)で釜山映画評論家協会賞の新人監督賞に輝いたイ・ヨソプ。かねて『アクシデント/意外』の大ファンで、「いつかリメイクしてみたい」と冗談まじりに語っていたところ、実際にオファーが舞い込んできたので驚いたそうだ。

 主人公のヨンイルは、偶然の事故を完璧にデザインする「殺人設計者」のリーダー。仲間たちを率いて次期検事総長候補の暗殺に挑むが、実行当日、死角なきはずの計画が突如狂いはじめる。それは単なる偶然か、それとも何者かが“設計”した事故なのか。

『アクシデント/意外』を観て以来、“事故に偽装して殺人を犯す”という設定に強く惹かれていたと語るヨソプ監督。創作の手がかりとなったのは物語の第一印象だった。

「原作を観たとき、“寂しさ”を鮮烈に感じたんです。登場人物は単に孤独なのではなく、誰かと一緒にいてもなお寂しさを抱えている。そういった個人的な感情が、ジャンル映画らしさと融合しているところに魅力を感じました」

現代社会のリアルをとらえた作品に

 しかしながら愛着のある作品だからこそ、当初はリメイクの明確なアイデアを持てなかったそう。それでも脚本を執筆するうち、現代社会のリアルをとらえた作品にしたいと考えるようになったという。

「最初は、いかにもジャンル映画らしい快感に満ちた映画にするつもりでした。しかし、脚本を書いていた3年間で韓国社会のあらゆる部分が激しく変化していったのです。そこで、ジャンル映画の枠組みを使ってこの社会の弱点を描きたいと思いました。原作にあった“真実はわからない”というコンセプトと、その過程を現代の視点で再解釈してみようと」

2025.06.28(土)
文=稲垣貴俊