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〈本気です〉

森有馬と七つの試練

 蒲田駅から新宿駅までは、品川経由で三十分かかる。大井町で乗り換えする場合だと三十四分だ。有馬はこの距離、というよりも直通ではなくどこかで一度、乗り換えを挟まなければいけない区間であることを、ちょっとした頼りにしていた。

 だから、会合場所としてサウスタワー新宿という名前をケースケさんから伝えられた時は多少の逡巡があった。検索してみると線路を挟んで髙島屋の向かいにあるホテルだったので少し安心した。歌舞伎町からは、離れている。

 当日、有馬は大井町ルートを選んだ。蒲田から大井町まで京浜東北線で六分、そこから埼京線直通のりんかい線に乗るため、JRの改札を出て長いエスカレーターをくだる。りんかい線の改札の先、ホームまで更にくだったが、もっと地下で良いくらいの気分だった。

 車内は空いていた。

 平日の昼過ぎに都心へ向かう人々は、一人一人、別の目的を持っていることが見て取れる。ビジネスバッグを膝の上に置いたスーツ姿の男にベビーカーのハンドルを握ってドア前に立つ若い女、固まって座っている、着飾った様子の髪の白い老婦人たち。皆、さして切迫している様子がないことだけが共通点だ。

 大井町と大崎の間で地上へ出て、窓から日が差し込むようになる。どこかでなにかのお手本として見たものが再演されているような眩しさを、有馬は目の前の光景に感じた。

 新宿へ到着する。ため息を吐いてから、立ち上がった。埼京線のホームから新南口改札のあるフロアまでのエスカレーターはやたら短かった。

 駅構内を抜け、サザンテラスへ出る。幅の広い遊歩道が傍らに線路を見下ろすようにして代々木方面へ続いていた。空の広さに解放感のようなものを一瞬だけ覚えたあと、高層ビル群が目に入り苦笑する。この遊歩道もまだ、見下ろされている側なのか。

 目的であるサウスタワー新宿を見つけるまでに少し時間がかかった。気づいて、これかよ、と唸った。白い壁が眩しい、左右のビルよりもひときわ立派な建物だ。といってもサザンテラスからでは高層ビル同士の実寸の差なんてろくに分からない。ただ高い広いではなく、迫力の問題だ。

2025.06.24(火)