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照明スタッフさんのセンスと阪神タイガース

――マスターは重要な役なので、セリフもたくさんありました。

 僕は、セリフを覚えるのに時間がかかるうえ、現場でも間違えてしまうことが多かったんです。僕がセリフを間違えて撮影をやり直すと、その分収録が延びて、終わる時間がどんどん遅くなっていく。ほかのキャストのみなさんに多大なるご迷惑をおかけしてしまいました。

 ただ、共演した山崎さんと飯島くんが「そんなに考えなくていいよ!」と明るくサポートしてくれたおかげで、徐々に緊張がほぐれ、リラックスして撮影に臨めるようになりました。本当にすごくいいチームでお仕事をさせていただいたと感謝しています。

 でも、何より、僕がいちばん力をいただいたのは、照明スタッフさんのセンスでした。

――照明スタッフさんのセンス?

 照明スタッフさんが撮影中ずっと、僕がこの世の中で一番好きな阪神タイガースのTシャツを着て、帽子をかぶっていたんです。これにはすごく大きな力をいただきました。

 僕は窮地に陥った時、阪神タイガース球団歌の「六甲おろし」を心の中で歌うくらい阪神を崇めているのですが、今回の撮影ではセリフが覚えられなくてテンパったり、焦ったりしている時に、ふと彼が目の前を通り、「阪神パワー」を授けてくれました。しかも、毎回違うレアなTシャツを着てきて、僕のモチベーションが、自然と上がってました。あのセンスには本当に救われました。キャスト、スタッフみなさんに感謝していますが、とくに彼にはあらためて御礼を言いたいです。

――なぜそこまで阪神タイガースがお好きなのですか?

 フランス人の父と日本人の母をもつハーフの僕は、2歳の時に来日したのですが、金髪で見るからに外国人の外見だったので、保育園でも幼稚園でもずっと「ガイジン」「人形」といじめられていました。

 当時は野球が流行っていて、男の子はみんな野球をしていたけれど、僕は仲間に入れてもらえない。そんな僕が、父が買ってくれた縦縞のキャップをかぶって歩いていたら「おい、ガイジン! バッターボックスに立てよ」と声をかけてもらったのです。

 僕が住んでいたのは神奈川県でしたが、アニメ『巨人の星』の影響もあって、圧倒的に巨人ファンが多かった。「縦縞=阪神」ということでライバル役として仲間に入れてもらえたのだと思います。

 阪神VS巨人の伝説の対決、みたいなことで盛り上がって、そこからはいじめもなくなっていきました。いまだにその時の「ライバル」たちとは友達づきあいが続いています。

2025.07.07(月)
文=相澤洋美
写真=釜谷洋史