華やかな大都会で、恋愛とも友情とも違う、特別な絆で結ばれた男女ふたりの13年間を描いた『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』。

 原作は、「国際ブッカー賞」や「ダブリン文学賞」にノミネートされたパク・サンヨンの話題小説『大都会の愛し方』。「ジェヒ」章をベースに映画化され、国内外で話題となった本作が、いよいよ日本でも公開される。

 恋愛や友情に「正解」はあるのか。「普通」の枠で生きることに難しさを感じるふたりが見つけた最強の関係とは。

「自分らしく生きる」とは?

 自分の人生は誰のものでもない、自分自身のものだ。

 そんなことを感じさせてくれる、愛おしい映画だった。あらためて「自分らしく生きる」とはどういうことか、考えたくなった。

 そもそも、社会のなかで“普通”といわれている価値観に私たちはどう向き合っていくのが正解なのだろうか。

 2000年頃までは、自分らしさよりも、「これが幸せの形です」と決められた人生に近づくことを、社会も人々も目指していたように思う。

 恋愛は男女間の異性愛が大前提。テレビドラマやCMなども、男女の恋愛を“普通”と捉えるものばかりで、とくにクリスマスにはその傾向が顕著に。宗教観や歴史的意味があるわけでもない、「(異性の)恋人と過ごすロマンチックな日」。そんな価値観が、洗脳のようにメディアによって植え付けられ、「クリスマスに(異性の)恋人がいない人は寂しい」という空気すら、当たり前のように存在していた。

“普通に馴染めないふたり”が主人公

 しかしここ数年は、日本でも「多様性」や「個性」が尊重され、恋愛においても多様性が重視されるようになってきた。LGBT当事者同士の恋愛や、他者に恋愛感情を持たないアロマンティック、他者に性的感情を抱かないアセクシュアルなど、これまでの“普通”とは異なる恋愛の存在も少しずつ広がってきている。

 恋愛をしない人や、恋愛はするけれど、恋愛中心主義には違和感を感じる人などへの理解も少しずつ進んでいるようにみえるが、もちろん、それを受け入れる人ばかりではないことも事実だろう。

 本作の主人公は、“普通に馴染めない”ふたり。「恋愛自由主義」と呼びたくなるような、恋愛にオープンな女性ジェヒ(キム・ゴウン)と、ゲイの男性フンス(ノ・サンヒョン)だ。

2025.06.24(火)
文=相澤洋美