胸が締め付けられるエピソード
そんなふたりの間にあるのは、弱さもみっともなさもすべてを見せ合える信頼感だった。
お互いが性的に「対象外」であるジェヒとフンスは、利害関係の一致からルームシェアをしているのだが、ジェヒと一緒に住んでいることを知った時のフンスの母親の嬉しそうな顔は、観ていて切ない。

なぜありのままの息子ではダメなのだろう。性的に同性が好きでも異性が好きでも、息子が幸せならいいと思えないのはどんなに苦しいことだろう。そして、そんな母に耐えきれなくなったフンスが、自分自身の存在意義を疑い、過去に自殺を試みたというエピソードにも胸が締め付けられる。
社会人になり、気持ちがすれ違う
学生から社会人になると、ふたりの気持ちは少しずつすれ違う。
兵役のために2年間ジェヒと離れ、兵役を終えてふたたびジェヒと暮らし始めたフンスは、心を許したかつての恋人に、すでに新しい恋人がいることを知ってしまう。
夢に挫折し、束縛の強い恋人の言いなりになっているジェヒに、「つまらない女になったな」と言葉をかけるシーンがあるが、あれはある意味、フンスが自分自身に向けた言葉だったのかもしれないと思う。

身近に感じるリアルな人物像
本作は、“普通”ではないふたりが出会い、絆を深めていく成長ストーリーでありながら、私たち一人ひとりに“普通”に生きるか、それとも自分らしく生きるかを問いかける作品でもあるように感じる。
「自分らしさが弱点になるなんておかしい」
自信をなくし、落ち込むジェヒに、フンスはこう言う。こんなふうに自分を認めてくれる誰かがそばにいるだけで、人は強くなれるし、優しくなれるのだ。
作中には、何度もジェヒとフンスの食事シーンが登場する。小さなちゃぶ台に向き合って座り、ご飯を一緒に食べる何気ない日常にも、相手への思いやりと優しさがあふれている。
また、いきいきとしたセリフと、丁寧に作り込まれたキャラクターには、どこか遠くにいる個性的な人ではなく、自分の近くにいる誰かに思えるようなリアリティを感じる。

2025.06.24(火)
文=相澤洋美