私財を投じてでも作りたいものを作るのが父のスタイル

──1億2000万ドル(約186億円)もの私財を投じて『メガロポリス』の制作費を調達されたそうですね。

コッポラ監督 『ゴッドファーザー』で成功した父は、『地獄の黙示録』でも高く評価されたけど、実は『地獄の黙示録』を制作する時も、誰からも支援を受けられず、実家を担保に入れて資金を調達しているんです。だから私財を投じてでも作りたいものを作るというのは、父の制作スタイルでもあるのだと思います。

──本作は映像美やVFXで「近未来のニューローマ」という世界観を可視化しています。どのようなディスカッションを重ねて映像を生み出していったのでしょうか。

コッポラ監督 父は近年、30年代や40年代の古い映画に興味を惹かれていました。それが何を意味するのか、どう本作に影響しているのかは、僕にはわからないけれど、撮影監督のミハイ・マライメア・Jrは、それを深く理解した。そして、撮影の雰囲気や照明、カメラへのアプローチに取り入れていた。だから結果的にすごく映像的な映画になったのだと思います。

 加えて言うなら、父は、映像美、映像イメージにこだわってはいたけれど、スクラップブックで映像をクリッピングしたり、特定の映画を参照したりはしなかった。ただ目の前に広がるものを受け入れていたように僕には見えました。

父は未来へ続く道を示したかったのかもしれない

──クラシックな映像を取り入れながら、テーマとしては「未来」を表現されたということなのですね。

コッポラ監督 本作はビジュアルを決め込んで作ったわけではなく、未来、そして人間の可能性というところに焦点を当てていたように思います。

 まだまだ人間の能力は飛躍していくと父は信じていたし、その未来へ続く道を示したかったのかもしれない。だから、キャスティングにおいても、メインキャラクターのまわりに若いインターン生を多く登場させているし、「未来」「未来への可能性」というテーマから自然に生まれてくるスピリットのようなものに、自由に身を預けてビジュアルを組み立てていったのだと思います。

 こういうスタイルで作品が完成できたのは、撮影監督のミハイ・マライメア・Jrはもちろん、編集のキャム・マクラクリン、ビジュアルコンセプトのディーン・シェリフといったスペシャリストたちの力も非常に大きかったと思います。

2025.06.17(火)
文=相澤洋美