草稿から300回は書き直した

──構想から映画完成まで、なぜ40年もの歳月が必要だったのでしょうか?

コッポラ監督 どんなキャリアでもそうだと思うけど、やりたいことがあっても他の仕事に時間を取られたり、現実的に向き合わないといけない課題が生じたりして思うようにできない苦労はあるものですよね。

『メガロポリス』の制作もまさにそう。でも、構想から制作に入るまでにはずいぶん長い時間がかかったけれど、実際に撮影クルーがジョージアに集結して撮影準備が整った後は、4~5ヵ月という短期間で一気に撮影しています。

──フランシス・フォード・コッポラ監督は草稿から300回は書き直したとおっしゃっています。撮影に入るまでが大変だったのですね?

コッポラ監督 でも映画ってそういうものじゃないかな。作ろうと思っても簡単には作れないし、予期せぬことも起こる。『メガロポリス』の制作は、なかなか軌道に乗らなかったように聞こえたかもしれないけど、だからといって父が落ち込んだり、制作への意欲を失ったりしたという印象は僕にはない。

 脚本については、そのくらい書き直したのかもしれないけど、改稿するたびに家族に送ってくれていたので、みんなでそれを読んでコメントを返していたのはすごく覚えています。

思いがけない事態で中断しても、それが映画監督の仕事の一部

──中断するのが映画制作である、と。

コッポラ監督 父はそう考えているんじゃないかな。彼は長年のキャリアで、映画制作には一定のプロセスがあり、サイクルがあるということを十分に理解しています。実際、本作でも俳優を待たなければいけない時もあったし、9.11アメリカ同時多発テロのように思いがけない事態が起こって制作がストップしたこともあった。でもそれが映画監督の仕事の一部だと父は考えていたと思うよ。

 だからどんなに制作が中断しても父が落ち込んだり、家族に慰めを求めたりした記憶はありません。父に対して家族がしたのは、父が構想している新作を世の中に生み出すことができますように、と願うこと。そして、簡単に制作が進まないいらだちを分かち合うこと。ただ、それだけです。

2025.06.17(火)
文=相澤洋美