麗しい「オッタマゲ」におったまげた「限界突破×サバイバー」

 実は2000年、デビュー曲「箱根八里の半次郎」のころ、私は雑誌の編集のバイトをしていた。ちょうど夏川りみさんもセカンドシングル「花になる」をリリースしており、氷川&夏川、2人の広告を見ながら「新しい風だね」と編集の方が話していたことを覚えている。

 彼はそれからあれよあれよと売れていき、「きよしのズンドコ節」が空前の大ヒット。日本中が、そのノリの良さと歌のうまさのマリアージュに舌を巻いた。

 カラオケでもこの曲のお世話になった人も多かろう。かくいう私も「ズン、ズン、ズン、ズンドコ、稲ちゃん!」と、自分の名をコールしてもらい、スター気分になったものだ。

 「ときめきのルンバ」「虹色のバイヨン」「一剣」「星空の秋子」など演歌、歌謡曲で名曲が多い氷川きよしだが、ターニングポイントといえば、間違いなく2017年の「限界突破×サバイバー」。

 初めて聴いたときは本当にびっくりした。あんなカッコいい「オッタマゲ~!!」ある!? 多分世界一、いや、宇宙一シビレル「オッタマゲ~!!」ではなかろうか。

 アニソンフェスでもおおいに盛り上がるのも納得。何度でも聴ける!

「大丈夫」をもう少し聴きたかった2019年紅白

 ただ、2019年の紅白歌合戦は悩ましかった。この年、キー様はシングル「大丈夫」という超絶名曲をリリース。心の憂さを吹き飛ばしてくれる激熱和製行進曲みたいな感じで(イメージよ伝われ……)、個人的には松平健さんの「マツケンサンバⅡ」に並ぶ、日本が誇りしアゲアゲ曲だと思っている。途中で入る手拍子も素晴らしい。

 紅白でアリャサコリャサ、ソレッと盛り上がりたい! そらもう前のめりで楽しみにしていたのだ。

 そして本番、キー様は期待通り「大丈夫」のイントロで登場。しかーし!

「大丈夫ッ(チャッチャッチャ♪)大丈夫ッ(チャッチャッチャ♪)」

 この一節だけ歌い、華麗に着物を脱ぎ捨て「限界突破×サバイバー」に突入されたのだった……。

 マジか(泣)。いや「限界突破―」大好きなのよ。でも、でも! もう少し「大丈夫」も聴きたかった。そう思いながら、揺れる龍に乗りヘドバンしながら歌うキー様を見守ったものだった。

 いつか紅白で「大丈夫」フルバージョン、歌ってくれないかな。

 少し気が早いのだが、今年も紅白出場を期待している。というのも、氷川きよしは紅白歌合戦と滅法相性がいいのだ。紅白が放つ独特の緊張感に、伝統と革命を行き来する彼の個性がバシィッとハマるのである。

 何度心震わせ、年越しに勇気をもらったことか。パパイヤ鈴木とおやじダンサーズとのコラボレーションが斬新だった「きよしのズンドコ節」(2002)。親戚のオバサンの気持ちになり涙で見守った「きよしのズンドコ節」(2回目)大トリ(2008)。熊本地震が起きた2016年、熊本城から生中継で歌った魂の「白雲の城」。聞き惚れてわが家が静まり返った「歌は我が命」(2021)。あまりの麗しさに1年間の嫌なことが吹っ飛んだ「限界突破×サバイバー」(2022)。昨年の「白雲の城」も素晴らしかった。ラストのポーズに見惚れていたのに、司会の有吉さんが声をかけるタイミングがちょっと早かった。もう少し待ってほしかった……。

 しかし気の毒なのは、毎年「きよし楽しみ~」とスタンバっているのに聴き逃すオカンである。というのも氷川きよしは歌唱順が後半。アラナイ(四捨五入して90)のオカンはめくるめく若者のステージに疲れ果て、クッションを抱えたままの姿勢で寝落ち。きよしとは夢で逢いましょう状態なのである。

 耐えろ、耐えるのだ、オカン!

2025.06.05(木)
文=田中 稲