村上 東京五輪が終わった時に、この経験を自分のものだけにせず、体操界に伝えていきたいと強く思ったんです。五輪の代表合宿の時に、私が24歳で最年長でしたけど、みんなにアドバイスしたり教えたりするのがなんか楽しいな、って。そして、みんなで一緒にメダルを獲りたいと考えるようになったんです。

かつては子役として活動したことも

――村上さんといえば子役としても活動されていました。発信力もありますし、タレント活動などの選択肢もあったのではないかと……。

村上 子役をやっていたのも体操のためだったので、芸能活動に積極的なわけではなくて。でも、こうしてインタビューを受けたり、テレビに出演させていただいたり、私が表に出ることで体操を注目してもらえることは大変ありがたいなと思っています。

 ただ、私が今しかやれないことって何だろう、って考えると、やっぱり「日本体操女子を強くしたい」ということが最優先だったんです。そのための最短ルートを選んだつもりです。

 あ、でも、引退を決めたとき、ずっと指導して下さった瀬尾(京子)先生に「コーチになりたい」と相談したら「意外」と言われましたね(笑)。

体操女子が「世界から後れを取っていた」理由

――日本体操男子は「お家芸」と言われるほど強いのに、女子は村上さんがメダルを獲るまで、50年以上の空白がありました。低迷の原因はどこにあると思われますか?

村上 まず一番はDスコア(演技内容の難しさ)、Eスコア(演技実地の完成度)共に足りていないということ。言ってしまえば技術力不足です。さらにはフィジカルやメンタルの面でも世界から後れを取っていたと思います。

――フィジカルの問題というと、どういった部分でしょうか。

村上 日本人女性の身体的特性を言い訳にしたくはないけど……。やっぱり、欧米の選手と比べれば、脂肪、筋肉、身長などで差がありますよね。ただ、「だから仕方がない」というのではなく、体づくりを強化すればそのハンデはクリアできるはずです。

 さらに近年は、演技の美しさや質がより重要視される傾向にある。これは日本の強みを生かせるし、追い風にもなるはずです。

最大の問題は「すぐにやめてしまうこと」

――メンタル面についてはどうですか?

村上 あくまで私が思うことなんですが……。小さい頃、女の子は男の子より「危ないよ」って言われて育った子が多いんじゃないかなと思うんです。そういう潜在的な意識が、いざ体操で思い切った動きをしようとするときに、ストップをかけてしまうんじゃないかなと。あと一歩のところで、差をつけられてしまう。

――女子選手は早くに競技を離れてしまう傾向にもありますよね。

村上 そこがこれまでの最大の問題だったと思いますね。才能のある選手が現れたと思った途端、すぐにやめちゃう。長く続かないから経験や知見が受け継がれない。だから長い間トップに辿り着けなかったんではないかと。

2025.05.30(金)
文=吉井妙子