第五話「火付け」はラストを飾るにふさわしい物語。吉原と火事というお江戸とは切っても切れない題材をもとにおせんと登の幼馴染みコンビがまたまた大活躍する。

 火事で焼け出された妓楼での足抜け騒ぎ。大門の外での仮宅に出るよう命じられたお針の小千代がとある策でまんまと妓楼を脱出。執拗に必死に後を追う破落戸たち。たかがお針一人に、という疑問。何か裏が?と、ここまでならおせんには何のかかわりもない話なのだけど、小千代はおせんから借りた式亭三馬の「両禿対仇討」の写本を持ったままだという。

 おせんの手による写本なのでそれほど値打ちはないのだが、おせんにはこの写本をどうしても返して欲しい理由があるのだ。おせん&登チームは破落戸ヤカラたちより先に小千代にたどり着けるのか。まさに手に汗握る展開と第一話につながる写本の秘密に思わずうなるだろう。いやぁ、うまいねぇ。ちゃんと伏線回収されました。おせんの中にある本への、父親への思いの深さが心にしみる。

おせんのキャラクターの妙

『貸本屋おせん』の魅力の一つがそのテンポの良さだと先に書いたが、もう一つ忘れちゃいけないのはおせん自身のキャラクターだろう。けなげでいじらしい、と描かれがちな不幸な生い立ちの少女を、クレバーでタフで、ある意味図太さも持つ自立した女性として描くところに作者の女性観が見える気がする。何度転んだって何度でも立ち上がるしぶとさと、自分の人生は自分の足で歩いて行くんだという強い思いを持つおせんの魅力がたっぷり詰まっている。

 明けない夜はない、けれど暮れない朝もない。目先の明るさを見せるだけじゃない、現実の厳しさと、また夜が来る悲しみの世をそれでも自分の力で渡っていく逞しさが何よりの魅力なのだと思う。

貸本屋おせん

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2025.05.27(火)
文=久田かおり