外国からの観光客と話す
ここまで来る人は多くないようだ。静けさが支配していて、観光地であることを忘れそうになる。写真を撮影していると、外国からの観光客らしい家族4人が歩いて来た。橋の中ほどまでこわごわと進み、真下にすっくと立つ石柱をしばらく眺めていた。
「どこから来たのですか」と尋ねた。
「ドイツです」。24歳の女性が流暢な日本語で返す。

1年前から広島で独り暮らしをしながら働いていて、「日本の風景を見せたい」と父母と弟を観光に呼んだのだという。「瀬戸内海を渡って四国に行ってみよう」と、中津渓谷のことはインターネットで調べた。
「橋はちょっと怖かったけど、すごい風景ですね。本当に来てよかった。田舎好きな母が特に感動していました」と女性は話す。
ただ、少し疲れてしまったようだ。「上り下りが多くて、父は膝が痛くなってしまいました。母はトイレに行きたいのですが、渓谷入口にしかないのですよね。遊歩道以外に早く戻れる道はないでしょうか」と尋ねられた。町役場が作成した「中津渓谷MAP」には、コミュニティバスが通る県道を歩けば10分強で帰れると記してある。そう伝えると、4人は県道を帰って行った。
「ゆの森で温泉も堪能できます」
県のHPには「渓谷を散策した後は、ゆの森で温泉も堪能できます」と書かれていた。これに従って、ひと風呂浴びる。仁淀川町内で湧いているアルカリ性単純硫黄冷鉱泉の沸かし湯で、日帰り入浴は大人800円だった。
こうしているうちに、帰りのバスの時刻が近づいてきた。

4時間半の“バス待ち”が長いか短いかについては評価が分かれるだろうが、ランチを食べ、渓谷をじっくり歩いて、温泉に入ったら、ちょうどいい時間になる。
「中津渓谷」のバス停には午後5時26分、時刻表通りにワゴン車タイプの「町民バス」が滑り込んだ。他に乗客はない。
人懐こい運転手は「私が乗せる今日初めてのお客さんです」と嬉しそうだった。学校が春休みなので、通学利用がなかったらしい。
2025.05.22(木)
文=葉上太郎