政府や官僚、マスコミなど「エリート」への反感が、世界的に強まっている。

 こうしたエリートを既得権益として批判し、喝采を浴びているのが「カウンターエリート」と呼ばれる存在だ。彼らは一見すると、反エリートを掲げながらポピュリズム的な主張をおこなう荒唐無稽なインフルエンサーのように思われている。しかし、その認識は端的に誤っている。

 カウンターエリートの潮流は、2024年の東京都知事選や兵庫県知事選、アメリカ大統領選、そして欧州政治など世界各国で見られており、政治や社会、そしてメディアなどの領域で大きな地殻変動を起こしつつある。

 第47代アメリカ合衆国大統領となったドナルド・トランプ、ウクライナ問題などで急速に存在感を増している副大統領のJ・D・ヴァンス、世界有数の投資家であるピーター・ティールらは、そのキーマンだ。日本や韓国、欧州などで誕生する新たな政治的リーダーは、その体現者だ。

 彼らが世界で同時多発的に台頭しはじめたことは、偶然ではない。

本当に重要なことが、無視されている

 本当に重要なことが、無視されている──本書が出発点とするのは、そうした強い仮説だ。

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 自分の政治的な立ち位置を「保守」や「リベラル」、「右派」や「左派」として認識することは、ほとんどない。テレビや新聞で、衆議院予算委員会や本会議などの「政治の話題」を耳にするが、その議論が自分たちの暮らしを本当に良くするとは思っていない。

 借金をしてまで「とりあえず」大学に行くべきか疑問に感じているが、それ以外の選択肢はないに等しい。過去数十年間にわたって初任給の額はほとんど変わっていないどころか、相対的に生活の苦しさは増している。少子高齢化は避けられず、誰もが年金をほとんど受け取れないと考えているが、制度改革の議論を進める人はいない。

2025.05.14(水)