丼の縁をはみ出る春菊天

 店は店主と奥さんだろうか2人で回していた。厨房が狭いのでスムーズな動線確保が難しそうだ。

 店内は細長い造りで10人は入れる大きさである。入口すぐのカウンターで注文して、お金を払い、出来上がった注文品を受け取って右手側で食べる。

 食べ終わった食器は一番奥のコーナーに返して、専用出口から退店するという仕組みだ。

 到着した時は2、3人が入口に並んでいて驚いたが、動線の工夫で店内は空いていて安心した。

 さっそく列に並び、しばらくして「春菊天そば」と「いなり」1つを注文した。

 そばは生麺を見込み数人分茹で、茹でたてを提供している。天ぷらはこまめに揚げているようで、ほぼ揚げたてを提供するか、少し時間がたったものは再度短時間揚げて提供しているのでアツアツである。

しっかりしたつゆがうまい

 1分程度で注文品が完成した。春菊天は手のひら型に揚げたタイプで緑の揚げ色が鮮やかだ。つゆをまずひとくち。おっ、鰹節が十分に利いた出汁が香る。返しもキリッとしたタイプで奥行きがある。これはうまい。そして、そばがなかなかユニークだ。丸麺なのだ。茅場町の「がんぎ」の丸麺よりやや太い。茹で立てなのでパツッとした感じのコシのあるそばである。この丸麺はなかなか珍しい。

 店主に聞くと、小岩にある岩野製麺所の生そばを使っているという。開店前、たくさんの製麺所を回り、麺を吟味して、最終的にこちらの生麺を採用したという。コシが強いのが特徴で冷しで食べてもうまいという。

 春菊天はカラッと揚げられていて香りもよい。硬いこともなく、食べやすい春菊天である。そして、いなりはこれも自家製である。薬味のねぎも十分にのる。なかなかよい出来栄えの味である。

 あっという間に食べてしまった。そこで店主の「冷しがうまい」という言葉を思い出し、「冷しゲソかき揚そば」を追加注文した。そして待つこと1分ほど、どんぶりが登場した。

2025.05.09(金)
文=坂崎仁紀