参道をそぞろ歩き精進料理に舌鼓

 宿坊では、泊まったお寺でお坊さんと同じように精進料理をいただく。仏教の戒律に倣い、動物性の食材や、香りの強いねぎやにんにくなどを使わない料理は、四季折々の自然からの恵みを感じられるものばかりだ。

 噛みしめるごとに豊かな味わいがあり、味覚が研ぎ澄まされてくる。出汁のふくよかな味わいや、揚げ物もあるので満足感は高い。

 なお、高野山では参道にも気軽に精進料理を味わえる店がある。特にごま豆腐は、精進料理で貴重なたんぱく源であり、満足感を与えてくれる重要な存在。数店舗あるなかでも「角濱ごまとうふ総本舗」はなめらかな食感と香ばしさでファンが多い。

 しかも、ごま豆腐の原液をスープに使ったグルテンフリーの麺料理など、バラエティ豊かなメニューが揃い、飽きずに食べられる。「ごまとうふ懐石 五彩」では、精進料理の五法・五味・五色の調理法で作られた5種類の料理が供され、それぞれの魅力を楽しめる。

 また、カフェで精進メニューが食べられるのも高野山ならではだろう。「高野山デジタルミュージアム」に併設された「高野山 café雫」の人気メニュー“高野山 精進カレー”は、キーマカレー。スパイスには地元の山椒を使ってスカッとした辛みが爽快。

 素揚げした野菜を彩りよく添えていて、華やか。ご飯も地元産で、隠し味には富有柿を使っているのだとか。

 この旅の間、滋味深い精進料理の世界にどっぷり浸ってみるのもいいだろう。

 高野山ならではのお香や数珠、高野槇を使った雑貨を購入したり、体験、そして食事を楽しむ場所もある。

 2023年にできた複合施設「天風てらす」は、1階はセレクトショップ、2階はゆっくりとランチができるレストラン・カフェで構成されている。

 特に“体験”は若女将の馬場麻美さんが着物姿で行う香りにまつわるワークショップが好評だ(事前予約必須)。

 高野山では参拝の際に「塗香」という粉状のお香を手や体に塗ったり、お線香ではなくお焼香を上げる機会も多く、香りが浄化に効果があることを意識する。

 ここでは天然の素材を組み合わせ、自分だけの香り作りを体験。嗅覚と脳は直結しているというから、直感を働かせて作った香りは、きっと普段の生活に戻っても、身を清め、厄から守ってくれるだろう。

 香りのアイテムは、若女将セレクトの塗香やお香、お線香など充実。ほかにも着物や畳の素材を使ったアクセサリーや、高野槇の香りの石けんや入浴剤など、持ち帰って高野山の余韻に浸れるアイテムが揃っている。

愛すべき「特急こうや」で聖地を目指す

 さて、最後に紹介したいのが高野山へのアクセスだ。和歌山駅や関西国際空港でレンタカーを借りるのも便利だが、実はおすすめなのが南海電鉄での旅。

 全席指定の「特急こうや」で大阪「南海なんば」駅から、一気にケーブルカーへの乗り換え駅でもある「極楽橋」へ。レトロな姿で勾配のある坂もぐんぐん上り、木々をかき分けるように進むさまは、愛らしくも頼もしい。

 また、高野線の途中駅では高野下駅に泊まれる「NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道」、九度山駅にはかまど炊きが人気のおむすびスタンド「くど」があるなどの話題も多い。

 到着した極楽橋駅では、ケーブルカーの発車時間まで天井に描かれた動植物の絵「はじまりの天井絵巻」を眺めたり、少しだけ歩いて実際の極楽橋を見に行くこともできる。

 ケーブルカーに乗れば両側は深い森と断崖絶壁。みるみる俗世と離れていくようで、体が移動するだけでなく心も、特別な場所へと動いていくように感じる。

 おりしも大阪では「EXPO 2025 大阪・関西万博」が開かれる。一足のばして、日本の圧倒的聖地へ。ほかの地にはない特別な時間と体験に、必ず出合える旅先となるに違いない。

Column

CREA Traveller

文藝春秋が発行するラグジュアリートラベルマガジン「CREA Traveller」の公式サイト。国内外の憧れのデスティネーションの魅力と、ハイクオリティな旅の情報をお届けします。

2025.04.28(月)
文=北條芽以
撮影=橋本 篤
協力=和歌山県東京観光センター

CREA Traveller 2025年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

物語の生まれる地を訪ねて 秘密の英国

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特別定価1,650円(税込)