「大型書店はすべて地下にある」韓国の出版事情は

 ここで、韓国の書店事情、出版事情に触れておく。韓国の大型書店はすべて地下にあるらしい。

「街を歩いていてフラッと本屋さんに立ち寄るということが簡単なことではないんですね。そんな中でもいい本を待ってる人はいると思っていて、私がYouTubeチャンネルをやっているのも、私が自ら選んで『こんな本がありますよ』というのを映像でお伝えすることで、本と人とを結びつける手伝いができるのではないかと思うからなんです」

 韓国で作家はどう発掘されるかと言えば、伝統的に、短編小説の応募を通じてデビューが決まる。ハン・ガンさんも小説の出発点は短編「赤い碇」(1994年・未邦訳)からだ。

「作家の卵が短編小説で十分にトレーニングを積んで登壇し新人作家として活躍していく、という流れがあります。特に、デビュー10年以内の作家の短編を対象とした『若い作家賞』は受賞作7編が毎年受賞作品集として刊行されるので、読者にとっては『いまどんな若手の作家が面白いんだろう』ということを知る一つのもの差しにもなっているんですね」

 そんなカンさんが注目してほしい作家として挙げたのは、詩人のキム・ヘスンさん、小説家のチョ・ヘジンさん、ファン・ジョンウンさん、カン・ファギルさんだ。すべて邦訳がある作家たちなので、ぜひ手に取ってみてほしい。

◆最初に読みたいハン・ガン作品

『少年が来る』

ハン・ガン 著/井手俊作 訳
クオン 2,750円

韓国の民主化運動を軍が弾圧し、多くの犠牲者が出た「光州事件」。歴史的悲劇を、親友を殺された少年トンホを始め、死者の魂や生き残った人々が語り継ぐ、6章とエピローグの鎮魂歌。


『別れを告げない』

ハン・ガン 著/斎藤真理子 訳
白水社 2,750円

国家権力によって数万人の済州島民が虐殺された韓国の負の遺産の悪夢に悩まされている作家のキョンハ。友人の頼みで向かった済州島で、現実と幻想のあわいで当時を紐解いていく。

カン・ユンジョンさん

季刊誌『文学トンネ』編集長。YouTubeで「編集者K」の活動も。愛猫の名前は江(カン)。


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2025.03.07(金)
文=CREA編集部

CREA 2025年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

韓国のすべてが知りたくて。

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