繰り返し描かれる「雪」

ハン・ガン作品において雪は現在と過去、生と死のはざまにある非常に重要なモチーフだ。『少年が来る』にも『すべての、白いものたちの』にも『別れを告げなげない』にも、雪の描写が登場する。
「私は『別れを告げない』の刊行のあとから担当になったのですが、ハン・ガンさんが同作に取り組んでいらっしゃったころの印象深い思い出として、私に話してくださったエピソードがあるんです。
7年という長い執筆期間、ハン・ガンさんはずっと、雪の感触を自分で確かめるということをとても大事に考えていらして、雪が降る日にはもうとりあえず外に飛び出してタクシーを捕まえて、近くの山の奥深くまで行ったりして。感覚的に雪を捉えるために、積もった上に寝そべってみたり、歩き続けてみたりしたとか。執筆を終えたときに『この先は雪が降っている日に表に飛び出さなくてもよくなったので、そのことにほっとしている』と語っていたそうです」
ノーベルウィークのストックホルムで、カンさんは大小さまざまな書店に立ち寄り、総合ベストセラー10の中にハン・ガン作品が4つもランクインしていたことや、授賞式の数日後に全世界のハン・ガン担当編集者たちが一堂に会して特別なランチ会が催されたことも、韓国の文学編集者として忘れがたい出来事だった、と振り返る。
2025.03.07(金)
文=CREA編集部
CREA 2025年春号
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