鮮やかな包丁さばき、美しい器、和魂洋才の味わい

「鶏山葵焼」と、山葵の葉の下の器に「手打ち蕎麦 塩仕立て」。

 目の前のまな板の上では、静々とアワビが切られています。プロの包丁さばきは見ているだけで飽きませんが、あっという間に器に盛りつけられ、一皿目が目の前のお膳に運ばれました。「旬の貝と野菜のゼリー寄せ」はバカラのクリスタルと野菜のジュレがキラキラと輝き、まばゆいばかり。やわらかな弾力のあるアワビの旨味を噛みしめ、ロゼシャンパーニュとともに味わえば、至福のマリアージュです。赤貝の、瓜のような香りや歯ごたえと、よく冷えたなめらかなジュレも、最高の相性です。

「うかい豆腐湯葉巻き 梅ソース添え」。

 そして次の「うかい豆腐湯葉巻き 梅ソース添え」は、姉妹店「とうふ屋うかい」でも使われている自家製豆腐を湯葉で巻いて揚げたもの。アツアツのお豆腐のやさしい味に、梅ソースの甘酸っぱさがよく合います。金銀の漆で高尾山と川が描かれたお膳と、湯葉巻きを盛りつけた漆器の取り合わせもすてきです。

 続いて登場したのは、「手打ち蕎麦 塩仕立て」と「鶏山葵焼」。蕎麦は創業店のある高尾の名物ですが、その高尾のDNAを取り入れ、銀座で手打ちし、珍しい塩仕立てにしています。塩だれがかかったコシのある細めの蕎麦は、山の空気のような清々しさです。一方、鶏山葵焼はふっくらと焼かれ、しっとりと柔らか。パサつきがちな胸肉をこんなにしっとりと焼けるのはなぜ!? と尋ねてみたところ、フランス料理発祥の真空調理を取り入れているのだそうです。和魂洋才、ですね。

「江戸前穴子とホワイトアスパラ 木の芽味噌掛け」。トルコブルーの器に味噌の黄色が映えてアートのよう。
「蛍烏賊 木苺和え」。

 西洋の技術は、後の品「江戸前穴子とホワイトアスパラ 木の芽味噌掛け」や「蛍烏賊 木苺和え」にも使われています。ふっくら焼かれた江戸前の穴子とホワイトアスパラガスにたっぷりかけた木の芽味噌は、実はフランス料理で使われるサバイヨンソースを加えてあるため、空気を含んだやわらかな口当たり。蛍烏賊はラズベリービネガーで和え、レモンの皮を細かくおろしたものをふって供されます。蛍烏賊とラズベリーの意外な相性の良さは、驚きもの! でした。

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2014.05.20(火)
文・撮影=小松めぐみ