この曲からは、颯爽とメルセデスを駆る老女の姿が浮かぶ
山口 実は、先月、六本木にある、翔さんがプロデュースしているお店に連れて行ってもらう機会があって、ご本人とも一緒に飲んだのですが、めちゃくちゃ気遣いのできる“大人”でしたよ。
伊藤 そんな感じはします(笑)。
山口 業界の大先輩である映画プロデューサーに連れられて大人数で行ったのですが、中に駆け出しのバンドマンもいて、彼らともきちんとコミュニケーションしていて好感を持ちました。大先輩もきちんとたてるし、インディーズのバンドの子にも上から目線ではなく話して、冗談も交えて場を盛り上げていました。すごく高い「人間力」を感じましたよ。作品性と共通するところもある気がしました。
伊藤 だからですかね、時代錯誤ではありますが不良の象徴“ヤンキールック”をしていても人間として魅力的だし、人と繋がってる感が凄くあります。ところで、今回の「喧嘩上等」に関してなんですが、ドラマタイアップの内容に合わせたんだと思うんだけど、歌の主人公が女性なんですね。なんか氣志團のキャラクターで女性目線の歌詞って、ちょっと違和感あったんですけど、こんな妄想してみました。
山口 恒例の、作詞アナリスト伊藤涼による「妄想分析」ですね。「喧嘩上等」からどういうイメージを受け取ったのか、興味あります。
伊藤 その女は信号で止まると、ハンドルに両手の掌の下の方を激しく叩きつけた。そして怒りを吐き出すようなダミ声で叫んでいる。2枚のガラスで隔てられたこちらまでは、はっきりとは聞き取れないが、それは「あのやろう、くたばっちまえ!」とか「女だと思って舐めるんじゃないよ!」みたいな感じのことだ。あまりに興奮していて、周りなど全く気にしていないが、横断歩道を渡る歩行者は何事だろうと遠慮がちに覗き込む。何よりも彼らを驚かせているのは、その罵声を放つ女が80歳になろうという年齢を思わせる風貌だからだ。髪の9割はバニラのような色をしていて、その横顔には皺が走り、手の甲には緑色の血管が浮き出ている。しかし背筋はピンとしているし、目には鷹のような鋭さがあり、唇には真っ赤なルージュが引かれていて、その女がまだオンナであること証明しているようだ。信号が青に変わった瞬間に、その女はもう一度ハンドルを激しく叩き金きり声をあげた。やはり、一語一句ちゃんとは聞き取れないのだが「かかってこいや、女のみちは喧嘩上等じゃ!」と言ったように思えた。そして女のメルセデスは、スポーツカーのようにケツを振りながら表参道を真っ二つに切り裂いて行った。
山口 今回は物語ではなく、1シーンの情景描写で、イタコに霊が降りてきた感じですね。この曲が心に響いたんですね。
伊藤 前回ここで取り上げたももクロの「泣いてもいいんだよ」もそうだけど、いまJポップはレトロ・ブームというか、歌謡曲ブーム。オーディエンスもKポップとか洋楽に少し疲れて、日本人が本来好きなメロディーに貪欲になっていますね。これで日本の音楽業界も良い盛り上がりを見せると思うんですが、ゴールデンボンバーの「女々しくて」がいい起爆剤でしたね。ゴールデンボンバーと言えば、デビュー当時の氣志團とも重なる感じがしませんか?
山口 米米CLUBとゴールデンボンバー。観客を全方位から全力で楽しませる「人気者」の系譜ですね。かっこ悪くなるかもしれないことを全然気にしないのが、結果としてカッコイイというのが共通な気がします。
伊藤 ですね。
氣志團「喧嘩上等」
エイベックス 2014年5月21日発売
CD+DVD1,800円(税抜・以下同)、CDのみ1,200円
■表題曲「喧嘩上等」は、尾野真千子主演のフジテレビ系ドラマ「極悪がんぼ」の主題歌。月9の主題歌を担当することは、綾小路翔の長年の夢だったという。CD+DVDのジャケットには、学ランにリーゼントで決めた尾野真千子が登場している。
■「喧嘩上等」作詞/綾小路翔 作曲/西園寺瞳、星グランマニエ
■オフィシャルサイトURL http://www.kishidan.com/
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2014.05.15(木)
文=山口哲一、伊藤涼