音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!

 さて、2014年5月にリリースされる中から、彼らが太鼓判を押す楽曲は?

【2014年5月に流行る曲】
ももいろクローバーZ「泣いてもいいんだよ」

まさに歌謡ヒットのお手本のような楽曲

山口 今回は、ももクロですか?

伊藤 はい。いままでも、ももクロの破天荒ぶりには驚かされてきたけど、今回は作詞作曲に中島みゆきって(笑)、もう最強だなって思った。“ナンデモアリ”なアイドルグループが480度まわってココに来たかって感じ。

山口 480度って、1回転と1/3ってことね?(笑) 確かにそんな感じかもしれません。ももクロは、活動当初からクリエイティブチームが、素晴らしいですよね。最初のリリースは、ヤマダ電機のインディーズレーベルだったと記憶しています。その頃から注目してましたけれど、良い意味で、スタッフが「好き勝手に遊んでいる」印象です。

伊藤 僕は彼女たちが「Z」になってからしか知らないんですけど、それでも音楽業界の枠に収まらない、むしろ今の音楽業界に対して挑発的なアティチュードだなって感じていました。

山口 ももクロは、ヒャダインこと前山田健一作品の印象が強いですね。アニソンで活躍していただけに、一つの楽曲の中にたくさんの要素を詰め込む“ジェットコースター作曲法”みたいな曲が、ももクロと良い組み合わせだなと思っていました。

伊藤 最初に彼女たちの曲を聴いたときは「なんじゃこれっ?」って感じでした。僕が作ろうとしていた王道のヒット曲とは真反対だったので、「こんなの売れないんじゃない?」という否定的な考えがあったし、「でも、こんなことやっていいんだ」という思いもありましたね。

山口 メジャーな存在になって、マネージメントの体制が変わっても、挑戦的な姿勢が変わらないのは素敵ですね。それにしても、中島みゆき作品とは、本当に驚きました。

伊藤 ほんと驚いたし、笑っちゃった。とは言っても、TOKIOの大ヒット曲「宙船(そらふね)」があるからアイドル×中島みゆき、が全く想像できないものではない。だけど、この二番煎じをやってのける“怖いもの知らず感”がハンパない。

山口 僕は世代的には、ヤマハ音楽振興会がポプコンという国民的な大コンテストをやっていたのを知っています。中島みゆきは、そのコンテストから出てきた頃は、リアルタイム体験と言えないくらいの子供でしたけれど、「オールナイトニッポン」の深夜放送は中学生の時に聞いていましたから、それほど遠い存在ではないのですが、それでも「ももクロ×中島みゆき」は、どう受け止めていいのか戸惑いますね(笑)。

伊藤 そうなんですね。個人的に今までのももクロの曲って全然こなかった。なんとなくボンヤリとした感じで知っている程度の曲ばかり。なんか掴みどころがなくて、無秩序で、まるでアイドルのラジオ番組をダラダラ聴いているようで。ブランディングとしての楽曲というイメージが強く、楽曲が一人歩きするタイプの曲では無かった。でも今回の楽曲は伊藤涼的にもド真ん中、まさに歌謡ヒットのお手本のような曲。

山口 やあ、いい曲ですよね。フォークソングって言葉は、古い言葉になってしまっていますが、この曲は、フォークソング的なメッセージが込められていると思います。

伊藤 最初は、これって中島みゆきのカバー? って思ったくらい。

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2014.04.28(月)
文=山口哲一、伊藤涼