トリックスターであり続けようとするスタンスが好き

伊藤 正直言うと「いま氣志團って活動してるっけ?」ってくらいここ数年その存在に触れる機会はなかったんですよね。でもウィキってみたら毎年1枚くらいのペースでCDリリースしてるし、去年はベストアルバムも出しているんで驚きました。あんまり派手にプロモーションをしていないんでしょうか? それとも僕が業界事情に疎すぎるんでしょうか?(笑)

山口 前例の無い「メジャーデビュー記者会見」をやったのは2001年でしたけれど、その頃から存在感は際立っていました。その後06年からはDJ OZMA、08年からはとんねるずと一緒につくった矢島美容室など、リーダーの綾小路翔の別ユニットの活動が目立っていた時期もありましたからね。10年頃からは、氣志團としての活動に戻ってきている印象ですよ。

伊藤 そっかぁ、企画色の強い活動は、テレビなどの露出が派手だったし、僕もそのころまでレコード会社にいたので“並びを見る”毎日でしたからね。だから余計に最近の氣志團の印象は薄いのかな。でも、綾小路翔個人では最近でもバラエティ番組とかに露出はあるし、相変わらずの存在感ですね。

山口 僕は、彼のトリックスターであり続けようとしているスタンスが好きですね。DJ OZMAで紅白歌合戦に出演した時に、バックダンサーの衣装が裸体に見えると視聴者から抗議が出るという騒動もありましたね?

伊藤 ありましたね。

山口 NHKのスタッフと齟齬もあったようで、「事件」みたいになりましたけれど、観客を驚かせよう、刺激を与えようとする姿勢は支持したいです。

伊藤 あーいう“やんちゃ”が出来るアーティストは当時でも天然記念物より希少でしたからね。あの頃はやりたい放題暴れ回って、音楽業界のオフザケ役を一手に受けてたような見え方で大ブレイクしていましたよね。その彼が率いる氣志團が、初のドラマ主題歌だったり、オリコン1位を獲ったことがないとかもWikipediaで知って、けっこう意外でしたよ。

“永遠の16歳”も時間には逆らえず大人になった?

山口 氣志團は、楽曲よりもアーティストの言動やキャラクターの印象が強い、「人気者」という感じの売れ方でしたからね。同じエンターテインメント志向のグループとしては、石井竜也がカールスモーキー石井と名乗って率いていた米米CLUBは、知名度が上がってから、大ヒット曲をだしましたから、氣志團も満を持してかもしれません。

伊藤 確かに色物感といい、パロディー魔な感じは似たものはありますが、米米はデビューから月9ドラマの主題歌「君がいるだけで」で300万枚近く売り上げる大ヒットまで7年弱。対して氣志團はデビューから12年たっていますからね。ちょっとこの手のグループが大ヒット曲をだすには、デビューから時間がかかり過ぎてる感じもしますが、どうですか?

山口 DJ OZMAや矢島美容室を回り道と捉えるのか、エンタテイナーとしての誠実さと見るかによるのではないですか?「喧嘩上等」は、楽曲としては、どう思いますか?

伊藤 冒頭から「WOW…命有る限りは恋せよ乙女 WOW…血祭りだわ かかってこいや 喧嘩上等」とインパクトのある啖呵は相変わらずだなぁ~と。ただ冷静に音源を聴いてみると、突っ込みどころが無いくらいにちゃんとしてる。12年前の彼らと比べちゃいけないんだけど、“永遠の16歳”も時間には逆らえず大人になってるんだなぁと思っちゃいました。

山口 氣志團をデビューに導いたのは、当時、東芝EMI(現ユニバーサルミュージック)の加茂啓太郎さんという、新人開発A&Rマンです。加茂さんはウルフルズやナンバーガールなど、数々のアーティストのデビューの機会を作った、新人開発の分野では日本一の人ですが、最初のデモテープから強いインパクトがあったと語っていました。

伊藤 そのデモテープが「One Night Carnival」だったんですかね? ここで氣志團を取り上げようと決めた時、YouTubeで「One Night Carnival」のMVを見直してみたんだけど。サウンドとかアレンジとかすごーくショボイ、だけど歌も映像も最高に面白くて、一世を風靡したのが納得できる。あれをクリエイト出来るって、相当なプロデュース能力だなって。

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2014.05.15(木)
文=山口哲一、伊藤涼