万葉ロマンに思いを馳せ、古代食の「粟餅」を食す

 石上神宮のつぎは「天理観光農園」を目指します。距離はそこそこあるものの、山の辺の道はアップダウンが少ないため子どもから大人まで歩きやすく、体力に自信がない人でも安心。温暖な気候で、冬でも滅多に雪は降らないのでオールシーズン歩くことができます。(とはいえ、真夏の猛暑日は避けるのが吉)

 また道中には柿の畑が延々と広がっていて、奈良県が柿の生産量全国2位というのも頷けます。無人販売所もたくさんあって気軽に買い物ができるので(しかもとってもお買い得!)、お土産にはもちろん、お腹が空いたときの行動食として利用するのもアリです。

 さらに山の辺の道の脇には、古代から近代にかけての偉人たちの和歌や俳句などが彫られた石碑がたくさん建てられています。

 歌を通して歴史や偉人の想いを知れるだけでなく、「こうやって暮らしていたんだろうな。この景色を見ていたんだろうな」など当時の営みを想像しながら歩くことで、周りの景色が違って見えてくるのもまた山の辺の道の魅力なのです。

 しばらくすると、ウッド調の風情ある「天理観光農園」の建物が見えてきました。ちょうど小腹が空いてきたので、名物の「粟(あわ)餅」を注文してひと息つきます。

 じつはこの粟餅にまつわる話で、山の辺の道にはおもしろい伝承が残っています。

 何でも万葉の昔、粟は「恋人に会える」、餅は「心もちをあらわす」とされ、粟餅を食べると必ず恋人に会えると信じられてきたのだとか。そんなロマンチックな願掛けもスパイスとなる粟餅は、万葉の味を偲ぶ風物として、多くの人に愛されています。

 できたての粟餅がテーブルに出されると、香ばしい匂いが食欲を刺激します。さっそく頬張ってみると独特の粒感が舌触りよく、粟のほんのりした甘みが口のなかいっぱいに広がる!

 ほろっと柔らかい「きなこ」と、外側がカリッとした「砂糖醤油」の2種類から選べるので、お好きなほうをぜひ。

2024.12.08(日)
文=平野美紀子
写真=三宅史郎