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 仙台の奥座敷・秋保(あきう)温泉に開業した「界 秋保」。古墳時代からやんごとなき方々を癒し伊達政宗に愛された名湯と、名取川が削り出した渓谷美に没入できる湯宿です。政宗公にならった粋なもてなしや、ユニークなアクティビティも楽しみ。エントランスロビーに一步足を踏み入れると、そこには山の精気に満ちた別世界が広がっています。


山の緑を映すエントランスロビーから紺碧の間へ

 「界 秋保」があるのは、秋保温泉のなかでも奥まった静かなエリア。仙台の七夕祭りをモチーフにした暖簾をくぐり通路を進むと、そこは、渓谷の自然を取り入れた美術館のようなエントランスロビー。

 前身の老舗旅館から受け継いだという優美なソファ、仙台ガラスのこけしやだるまなどのアートピース、そして渓谷側は床から天井まで一面のガラス張り。上半分にあえて障子風の格子をかけ景色を絞り込むことで、まるで山の中に踏み入ったような一体感を生んでいます。

 全国の「界」では、地域の文化に触れるご当地部屋が用意されています。「界 秋保」は「紺碧の間」。秋保温泉の景勝地である名取川の峡谷「磊々峡(らいらいきょう)」が、かつて「紺碧の深淵」と表現されたことから着想を得たものだそう。

 ゲストを出迎える部屋番号の札は、江戸時代から続く伝統工芸品の「白石和紙」。中に入ると、紺碧のフレームに切り取られたピクチャーウィンドウから、外に広がる山々や渓谷美を楽しむことが出来ます。

 窓際に設えたデイベッドに足をのばし、うつろう景色を眺め、渓流のせせらぎに耳を傾けていると、だんだんと体内リズムが自然に調和し、五感が解放されていきます。

 室内に飾られたガラスアートは、秋保に工房を構える「海馬ガラス工房」の村山耕二さんによるもの。江戸時代に仙台の城下町でつくられていた仙台ガラスの技術を再現し、シンプルな器から、オブジェなどさまざな造形物を手がけている方です。

 現代によみがえった仙台ガラスは、仙台市内を流れる広瀬川の砂を溶かし込むことで生まれる独特の黄緑色が特徴。杜の都仙台を象徴するような、清らかで深みのある美しさがあります。

 このほか、寝室の障子にこけしの柄が隠れていたり、客室の鍵に付いた秋保石のキーホルダーなど、ご当地の伝統工芸に触れられるのも、滞在の楽しみです。

2024.12.08(日)
文=伊藤由起
写真=志水 隆、伊藤由起
写真協力=界