二人で一緒にボーリングに行っているときも、大河は恵にアドバイスばかりするものの、恵の方がスコアがよくなると、すぐに不機嫌になる場面が細かく描かれていてリアリティがあった。

 三女の衿は、いつからか行方不明で現在は不在である。彼女がいなくなった理由はまだ示されていない。

 このように、何人かいる登場人物のひとりひとりに光を当てることで、それぞれのフェミニズム的な問いを表現できるというのは、『虎に翼』と共通したものがある。

 しかし、『虎に翼』や『若草物語』のような、フェミニズムを描いたドラマはこれまで作られてこなかったのだろうか? よく、「日本のドラマはつまらない」という声を聴くことがあるが、こと性描写に関してはまだまだ韓国や中華圏で映像として表現するにはタブーが多い中で、良い意味でも悪い意味でもタブーが少なく、自意識や内面についての描写の多い日本の作品とフェミニズム表現というのは、相性がいいとも感じる。

 

結婚で家事労働がタダになる?『逃げ恥』

 もちろん、昔からフェミニズムを感じるドラマはあったにせよ、その考え方を、直接セリフなどに落とし込んだのは、2016年の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)が早かったのではないかと考える。

 海野つなみ原作、野木亜紀子脚本のこのドラマは、“ムズキュン”という言葉も生まれたくらいで、ラブ・コメディというイメージも強い。しかし、物語は主人公の森山みくり(新垣結衣)が、大学院を出ても正規の職に就職できず、派遣社員として働き仕事をそつなくこなすも、そうした態度を「小賢しい」と言われてしまったり、学歴や仕事っぷりから「ほかでもやっていけるだろう」とみなされ、あきらかに失敗の多い若い女性の派遣社員ではなく自分が派遣切りにあってしまうところからスタートする。つまりは、女性の労働問題が描かれているのだ。

 その後は、父の知り合いという縁で紹介された津崎平匡(星野源)の家で家政婦として働き始める。みくりと平匡はお互いの利害が一致したために契約(当初は偽装である)結婚をして、その後、二人の間には恋愛感情が芽生える。しかし結婚がちらつくようになると、みくりにとってそれまでは賃労働であった家事が、奉仕に変わって当然となる。その矛盾をこのドラマは「好きの搾取」と表したのである。結婚を機に、ケアが無償で当然となる感覚への疑問をここまで見事に示したドラマを初めて見て衝撃を受けた。

2024.11.20(水)
文=西森路代