黒崎は、一見、人当たりがよく、女性のよき理解者だという風にふるまう。しかし「やっぱり男は本質的には女性にはかなわない」とか「女性ならではの視点が欲しい」とか言いながら、「フェミニズムを押えておけばトレンドには乗れるかもしれないが、実際の女性はいまだにプリンセス願望を持っており、シンデレラのような物語がウケる」と考えている人だ。
黒崎のセリフにぎゅっと凝縮されているようなことを言われた人は無数にいるのではないだろうか。
また、涼は恋愛感情についてよくわかっていない人物として描かれている。しかし、彼女の高校時代からの同級生で、現在は新聞記者をしている行城律(一ノ瀬颯)は彼女に密かに思いを寄せているのだった。律は、恋愛するのが当たり前とは考えない涼に対して、自分が恋愛感情を向けることは、暴力的になりうるかもしれないと理解している描写にひとまずほっとした。これまでのほかのドラマでは、フェミニズム的な問題提起はあっても、最終的には恋愛至上主義に至る結末のものも多かったために、『若草物語』も最終的にどのような着地点にたどり着くのかはわからないが、タイトルの「恋せぬ私」を信じて見守っている最中だ。
涼以外の姉妹も、それぞれに悩みを抱えている。四女の芽(畑芽育)は、彼氏の浮気で別れたばかり。そんなところに、服飾学校の同級生の沼田灯司(深田竜生)が現れ、恋してしまう。つかみどころがなくミステリアスな沼田に振り回されている感があるが、登場人物の中では、芽はもっとも「恋する」キャラクターである(姉妹の母親も恋する女性であるが)。むしろ沼田のほうが年上の女性と親しくしてお金をもらっていることで、専門学校の同級生から偏見を向けられていたりと、悩みも多く気になるキャラクターでもある。
長女の恵(仁村紗和)は、ハローワークで働く非正規職員。交際相手は、同じくハローワークで働く正規職員の小川大河(渡辺大知)。彼は非正規職員とつきあっていることを隠そうとしている。この小川大河が、一見、可視化しにくいミソジニーを持った男性である。恵の先輩の40代の非正規職員・佐倉治子(酒井若菜)が上司からセクハラをされていても、狡猾に逃げるし、恵が結婚をしないのなら別れると告げると、うやむやな態度をとる。実は、社会にもっとも潜んでいるタイプの男性なのではないだろうか。
2024.11.20(水)
文=西森路代