それは同人誌でボコボコにされるやつ
土岡 最近は人と接することが増えていって、暗い子や、ヤンキーな子や、あと世話焼きな子たちと接していくんですけど、途中で明らかに1人、ちょっと性格の悪い子が出てきたんです。しかも陽キャで性格が悪い子。なんか嫌な子急に出てきちゃった、ってマンガ読んでてびっくりした。
ぐんぴぃ 同人誌でボコボコにされるやつね。
土岡 そうそう。でもその子がもともといた陽キャ側のコミュニティのこともちょっと描かれていて。そのイケてるグループでは、その場にいない子の悪口を全員で言ったりしていて、人間関係が結構こじれてぐちゃぐちゃになってる。それで、その性格悪い子が今度はぼっちになるんですよ。このマンガでは最初から、イケてない側のぼっちを描いてきてたけど、今度はイケイケな側のぼっちが描かれはじめた。
ぐんぴぃ 都落ちぼっちね。
土岡 鏡写しの関係みたいな感じになって。
ぐんぴぃ ワルイージみたいな感じ?
土岡 なんでワルイージなんだよ(笑)。マリオとワリオでいいじゃん。でも、確かに主人公も決してマリオではないからね。
ぐんぴぃ それ、仲良くなったりするんじゃない?
土岡 まだ直接の会話は1回もしてないんだけどね。
見ていて面白いのが、キャラクター同士が「この子はこの子をこんなふうに思ってる」っていうのを、セリフなしの顔だけで表現するページが結構多くて。8人ぐらいのキャラクターが座って文化祭のステージを見ているシーンだと、「この子は今ステージに立ってるこの子にこういう思いがあるからニコニコして見てるよね」とか、「でもこの子は今こういう思いがあるからちょっとつまんなそうな顔してるよね」とか、言葉では一切説明せずに顔だけで表現していたりとか。
あとは、いつの間にかヤンキーと優等生が仲良くなっていたり。これも、仲良くなる過程が全く描かれないんですけど。
ぐんぴぃ リアルだな~。いつの間にか仲いいんだよな、ヤンキーと優等生の女の子って。
土岡 人間関係とかキャラクターの描き方がめちゃめちゃ上手いから、「じゃあこの時にはこう思ってたのかな?」って何気ない会話を読み返したくなるんです。
陰キャ史を振り返る『こち亀』みたい
ぐんぴぃ 陰キャとかぼっちを描いた作品の走りだったんじゃないですか。 今ではもうそれが当たり前とは言わないまでも、そっちが優勢みたいになってきてるけど。
土岡 あー、そうだね。SNSが広まったりして。
ぐんぴぃ 最近、陰キャがちょっと強くなりすぎているきらいがある。令和ロマンのくるまも「陰キャが力持ちすぎ」って言ってました。陽キャの逆襲が怖くてしょうがないよ。
――土岡さんはご自身でもネタを書かれる立場ですが、このマンガのギャグの部分をどんな風に読んでいますか?
土岡 笑っちゃいますね。ネットミームやオタクの好きな時事ネタが入ってるのも面白い。例えば、主人公がお母さんに「押し入れを片付けて」って言われた時に、カスタネットが出てきて、「うんたん、うんたん」って言いながら叩くシーンがあるんですけど。読み返してて、「あれ、これなんだっけ?」って思い出すのに時間がかかって、しばらくして「そうだ、『けいおん!』のパロディだ!」って思い出したりとか(笑)。
ぐんぴぃ 陰キャのノスタルジーって悲しくなるな。
土岡 そういうのをどんどん取り入れている作品です。それこそ「喪女」って言葉ももう死語になりましたけど当時は使われていたし、初期にあった「リア充」っていう言葉が今は「陽キャ」に変わったり。「リア充爆発しろ」みたいな言葉も今は言わないですもんね。でも、どれも今読んでもなんか覚えてるんですよね。
ぐんぴぃ 陰キャ史を振り返る『こち亀』みたいになってる! 今後、「チー牛」とか「弱男」とか、どんどん出てくるだろうね。
土岡 それこそ数年前だとチー牛って言葉も書いてあったし……最新だと「風呂キャンセル界隈」って言葉が出てきたりとか。
――キャッチするのが早い! 風呂キャンセル界隈という言葉にちなんだストーリーになってるんですか?
土岡 いや、ぽろっと出てきた感じですね。こち亀ほど、その言葉を掘った話にはなっていないけど。
ぐんぴぃ 大原部長がポケモンやって、「バグってしまったぞ! 両津!」みたいな回はない?
土岡 それはないね(笑)。
2024.11.15(金)
文=ライフスタイル出版部
写真=佐藤 亘