この記事の連載

 お笑いコンビ・春とヒコーキのぐんぴぃさんと土岡さんにマンガを語っていただく本企画。ぐんぴぃさんの心を照らしているという異色作『路傍のフジイ』に続き、土岡さんが教えてくれたのは、ご自身の実体験とリンクしている作品で――? 

 マンガのみならず、映画や演劇にも詳しいお二人が信頼しているカルチャーの先輩たちについても教えていただきました。


俺たちは優れてるし、愚かだ

――土岡さんにご紹介いただく作品は谷川ニコ先生『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(ガンガンコミックスONLINE)。連載が始まったのはもう10年以上も前なんですね。

土岡 そうですね、2013年頃、最初はアニメで観ていました。主人公の女の子は“ぼっち”の高校1年生、黒木智子。学校行っても全くしゃべる人がいなくて、ずっと家でパソコンをやっていて、どうやったらモテるのかを勉強して試してみるんだけど、もう根本が全然イケてないから、全然ダメ。被害妄想でリア充をただ憎んでいくところから始まるんですけど……。

土岡 僕も高校生の時、全く友達ができなくて。

――はい、YouTubeの動画を観て存じ上げています。

土岡 学校でもほとんどしゃべらずに、家に帰ってずっとネット見てる、みたいな感じだったので、そこがめちゃめちゃリンクして。でも、だからと言ってそれを暗く描くわけでもなければ、支えて寄り添うみたいな感じでもなかった。本当に周りに溶け込めなくて、自尊心ばっかりがでかい愚かさをギャグマンガとしてずっと描いていて、そこのカラッとした感じが気持ちよくて。まずアニメにハマって、そこからマンガに入りました。

 友達がいて「ウェーイ」って感じの奴よりも、ぼっちとか要は“陰キャ”みたいな奴の方が、感受性が優れていると、陰キャは思い込んでいる。読んで、「そうそう」と思って(笑)。俺たちは「優れてるし、愚かだ」っていう感じ。

「ぼっちマンガ」というジャンル

土岡 「ぼっちマンガ」っていうジャンルがあるのか分かんないけど――。

ぐんぴぃ キモいジャンルだなー。

土岡 たまにラノベとかで、主人公がぼっちっぽいのに実はモテたり、なんか優れてる、っていう作品もあるけど、この作品は別にそうならない。その感じがストレートだけど、新しいなとも思いました。

――主人公は女子高生ですが、わりと気持ちはわかる?

土岡 そうですね、結構「わかるわかる」と入っていきました。

 例えば、雨が降っている時に、他校の男子とたまたま雨宿りで一緒になる話があるんです。主人公の智子ちゃんは途中で寝ちゃうんですけど、起きたら男の子たちがいなくなっていて、代わりに男の子が置いていった傘があって、その傘を差して帰る、っていうエピソード。

 それを読んだ時に、 確かに自分も高校時代は友達がいなかったし、人と全然しゃべってなかったけど、本当は全くなにも会話がなかったわけでもなかったなって。「友達いなかったんだよ」って言って、なんでもかんでも関わった人のことを全部切り捨てちゃうのも違うなっていうことに気づいたんです。

自己分析が何にも生きないのが自分と一緒

――このマンガに土岡さんがハマったのは、ちょうど就活のタイミングだったことも関係があったりしますか?

土岡 智子ちゃんは人としゃべらないから、いくらでも時間があって、自己分析しすぎなところがある。その自己分析が別に何にも生きないのも自分と一緒。僕は就活もしたけど1社も受からなかった。「結局ノリ良くできちゃう奴が、まあまあいい企業に行けちゃうんじゃん」っていう部分が覆らない感じも、変に希望を与えなくていいなと思いました。 

 でも、実はマンガの方はだんだん変わってきたんです。

ぐんぴぃ な、なにっ?? 動き始めてるのか?

土岡 男にモテはしないんだけど、友達ができてきた。ぼっちマンガで始まったのが、今はすごい群像劇の人間関係マンガになっていて、正直最初の頃とは変わっています。

――そうなんですね。途中まで読んだ限りでは、ほぼ弟としかしゃべっていなくて、あとは全ての人間関係に失敗していましたが……。

土岡 それが変わっていったんです。例えば、修学旅行でたまたま同じ部屋になった人と絡んだり、2年生、3年生になるにつれて友達ができたり。最初の頃は本当に友達がいなくて、1年生編があっという間で終わっちゃってたけど、人と関わり始めたら、時間が倍ぐらい伸びて、どんどん時間のスピードがゆっくりになってる感じがして。たまたまそうなっただけかもしれないですけど、そこが巻数に表れているのがなんかいいなぁと。

ぐんぴぃ この後、大学生になってさ、すっごい楽しくなったりしてね。サザエさんくらい無限に大学生編が続いたりしてね。

土岡 確かにそう。どっちになるのか、ちょっと掴めないところがある。

2024.11.15(金)
文=ライフスタイル出版部
写真=佐藤 亘