嗜好全開、でも手応えを感じる

 その一方で、決して売れ筋とは言えない本にも光を当てる。ちくま文庫から発売された『リテラリーゴシック・イン・ジャパン 文学的ゴシック作品選』というアンソロジーを記念したフェアには、宮沢賢治、澁澤龍彦から乙一、伊藤計劃まで濃いけれど王道な作品を並べている。

150回記念芥川賞・直木賞フェアと、本屋大賞文庫化作品フェアを併設。
リテラリーゴシックフェア。宮沢賢治から伊藤計劃まで。

 そんな佐藤さんが好き勝手にやらせてもらっているという「今月の勝手におすすめ本」の棚が面白い。新刊でも映画化や話題書でもなく、刊行時期もばらばら、佐藤さん自身が読んで気になった本を嗜好全開で展開しているフリーダムなコーナー。坂木司さんの作品からは最新刊の『僕と先生』でもヒット作『和菓子のアン』でもなく、デビュー作の『青空の卵』を含むひきこもり探偵シリーズ、ネガティブさを突き抜けていっそ明るいかもしれない『絶望名人カフカの人生論』、外国幻想文学から本格推理、時代小説までの幅広い、マイナー感あふれる選書を、びっしり文字を連ねた手作り帯とフリーペーパーが後押ししている。話題の新刊や映画化作品のように爆発的に売れることはなくても、目を向け、手に取ってもらえればいい、と、佐藤さん。

 新刊・ベストセラー偏重になると、どこの本屋さんでも同じ本が並び、新しい本が入れば一斉に消えてしまう。もっといろんな本があっていい。中目黒ブックセンターの「勝手におすすめ」的な自由さが、本の多様性を支え、ちょっと大げさにいうと、文化的多様性の維持に一役買っているのではと思う。

嗜好全開の「今月の勝手におすすめ本」。
佐藤亜希子さん、「今月の勝手におすすめ本」の前で。

【CREA WEB読者にオススメ】
 そんな「今月の勝手におすすめ本」から、佐藤亜希子さんにCREA WEB読者へ一冊紹介してもらったのは、城平京さんの『名探偵に薔薇を』(創元推理文庫)。アリバイ重視のいわゆる普通によくできた本格推理小説として読んでいたが、第二部での驚愕の展開、そのギャップがたまらない。

 実はこの作品、城平さんの1998年の長編デビュー作。何年か前にも仕掛けたものの、思い切った展開ができずに反応が薄かったが、文庫の担当になって約4年、改めてここで大きく展開したのは、今ならきっと手に取ってもらえるのではという感触があるからという。新刊売れ筋や話題書も、王道の名著も、嗜好全開の本も、いろいろ売ってきた経験によって、常連さんたちに届いている手応えがあるからではないだろうか。

[おまけ] 都内有数の桜の名所、中目黒桜レポート

 せっかく桜の季節に訪れた中目黒、訪れた桜スポットを少々レポートしてみよう。

 訪問した土曜日は好天に恵まれて、大いなる賑わいを見せていた。やや残念だったのは、まだ三分咲き、次の土日にはもう盛りを過ぎてしまうので、なかなかタイミングが難しい。接ぎ木で増やされる園芸品種であるソメイヨシノは、ほとんど同じタイミングで咲く。桜の開花予想、開花宣言がニュースになるのも、ソメイヨシノという遺伝的に単一品種だから可能なのだ(同じ気候、同じ条件なら、同じ時期に咲く)。目黒川河岸は、ほぼ南北に流れる川の両岸にほぼ等間隔の桜並木があり、同じタイミングで一斉に咲く。満開の時期は、咲き誇る花と、川面の花びらが、それはそれは華やかで美しい。

 目黒川沿いを、中目黒から南へ約800メートル、中目黒公園にも足を伸ばしてみた。ここからは目黒川の桜も楽しめるのだが、ハナモモ、ハナカイドウ、カリンなど多様な花が咲き競う。花期がそれぞれ違い、つぼみ、五分咲き、満開、盛りを過ぎたものもある。秋が盛りの楓も、この時期若芽の先端の濃い紅色がいい。都市防災の目的もあって最近造成された新しい公園と聞くが、生物多様性の維持を目指した池や、自然と触れあう仕掛けが楽しい。

 瞬間風速的に咲き誇るソメイヨシノの並木は美しいが、それだけでは盛りは一瞬。いろんな花が少しずつ咲く広場的な公園の方が居心地がよい。「二もとの梅に遅速を愛すかな」という蕪村の句があるが、激しく同意である。

中目黒公園の源平桃。差し色のような紅が美しい。

 葉桜の頃、紅葉の頃、そしてまた桜の頃、折々に目黒川を歩きに来よう。その時、中目黒ブックセンターの「今月の勝手におすすめ本」にはどんな本が並んでいるだろうか。ご近所旅の楽しみがまた増えた。

中目黒ブックセンター
所在地 東京都目黒区上目黒3-7-6
営業時間 11:00~23:00
Twitter https://twitter.com/nakamebc

小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。

Column

週末の旅は本屋さん

新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!

 

2014.04.12(土)
文・撮影=小寺律