――出産した日の夜もパソコンに向かっていたそうですが、キャリアを途切れさせたくないという思いがありましたか。

吉田 大きかったです。「もう少しで何かがつかめる気がする」という勘もあったんです。結果的にはその勘が当たってよかったのですが、私には母という理解者がいたからできたことなので、環境が違う方には充分に休んでいただきたいし、真似はしないでと伝えたいです。

 母は、私が妊娠した時も「せっかくここまでやってきたんだから、全速力でやれるように頑張りなさい」と言ってくれました。その言葉がなかったら、おそらく仕事をセーブしていたと思います。セーブしていたら『恋せぬふたり』を書いていなかったし、そうしたら朝ドラもなかったので、本当に母には感謝しています。

――『虎に翼』は、放送の翌週に、1週間分のシナリオが電子書籍として発売され話題になりました。そして10月21日、全篇の脚本や寄稿が収録された紙版シナリオ集の発売が決まっています。(現在は予約受付終了)

吉田 紙のシナリオ集の出版は夢だったので嬉しいです。『あまちゃん』のシナリオを読んだ時、「ああ、このシーンは撮影でこんなに短くなっていたんだ」といったことがわかって楽しかったんです。もちろんドラマ本編だけでも楽しめるように作っています。ただ私自身は、監督インタビューやシナリオから、放送されなかった設定や情報を知るのが好きなんです。

 そして、脚本家の岡田惠和さん、坂元裕二さん、渡辺あやさんの作品が大好きで、シナリオも読んできたので、『虎に翼』もシナリオ集を出せれば嬉しいと思っていました。時間の都合でカットした場面やセリフもシナリオには書いてあるので、ぜひ読んでいただきたいです。

●寅子が恩師の穂高教授に花束を渡さなかった理由、「寅子を肯定しているようで根本的には理解していない人」をなぜ描いたのか、3種類あるという寅子の「ごめんなさい」、よく見返すというジャック・ニコルソンの映画『恋愛小説家』の魅力など、インタビュー「『虎に翼』寅子が恩師を“許さなかった”理由」全文は『週刊文春WOMAN2024秋号』でお読みいただけます。

文・矢内裕子 写真・榎本麻美

2024.09.26(木)
文=吉田恵里香