そのジェレズニーがコーチとして育てた女子選手がバルボラ・シュポターコバー。北口も、自らが尊敬する選手として名前を挙げている。2008年北京、2012年ロンドンの2大会で金メダルを獲得し、彼女もまた72.28mという女子やり投げの世界記録保持者である。シュポターコバーもダナ・ザートプコバーと親しく、いつも試合前にはダナと会ってパワーをもらっていたという。

 こうした輝かしい歴史的スロワーたちに続くチェコ選手たちの成績は、ここ10年ほど見劣りするものだったことは否めない。2021年の東京五輪では、男子のチェコの選手が銀と銅の2つのメダルをとったものの、このときすでに両選手とも30代であり、チェコの指導陣はつねに若い才能を探していた。

 

チェコのやり投げ界に身を投じた北口

 70年にわたる濃密な人間関係のもとで築き上げられてきたチェコやり投げの世界に、遠く日本から飛び込んだのが北口だった。2018年、北口は指導者を求めて訪ねたフィンランドで、ジュニア選手の指導を行っていたダヴィト・セケラークと出会う。

 世界チャンピオンという文句なしの実績があるにもかかわらず指導者がいないという北口の話を、セケラークはにわかには信じられなかったという。

 セケラークのもとで練習して4年が過ぎた2023年秋、ブダペストで行われた世界陸上で北口は優勝を果たす。チェコのスポーツメディアiSport.czは、北口とセケラークが拠点とするボヘミア西部のドマジュリツェ市でインタビューを行い、その動画とともに、セケラークのこんな発言を紹介している。

ハルカにチェコ語でゆっくり話しかけてあげてほしい

「私たちはまず言葉の問題を解決しなければなりませんでした。私は英語がうまくなかったので、『ドイツ語ができるなら私がドイツ語を勉強します』とハルカは言ったけれど、新しく習うならチェコ語にしなさいと伝えました。実際にハルカがチェコ語ができるようになって、より多くのことを理解できていると気がつきました」

2024.08.30(金)
文=梶原初映