二人は当初、練習で使う表現の日本語・チェコ語の対応表を作っていたが、チェコのやり投げの指導で出てくる単語の中には、対応する日本語表現がないものもあった。日本の練習では言語化されていないやり投げの概念を、北口はチェコ語とともにまもなく理解するようになった。

 セケラークはことばの面でも北口をサポートする。

「若い選手たちに、ハルカにチェコ語でゆっくり話しかけてあげてほしい、彼女はそれを吸収して話すようになるから、と伝えている」

 

「ハルカのスポーツに身を捧げるその姿勢が本当に好き」

 パリ五輪直前の2024年7月のiSport.czの記事では、北口のチームメイトでチェコ代表のペトラ・シチャコバーが紹介されている。パリ五輪では予選14位で決勝進出を逃したが、まだ21歳の彼女は着々と記録を伸ばしている。

 ピルスナービール発祥の地プルゼニュ生まれの彼女もまた、紆余曲折を経てセケラークのもとに移籍した選手だが、そんな彼女の数週間後にドマジュリツェにやってきたのが北口だった。シチャコバーは憧れの選手として北口の名前を挙げる。

「ここで練習できることがとてつもない幸せ。自分は成長していると思います。ハルカのスポーツに身を捧げるその姿勢が本当に好きで、一緒に食事に行くこともあります。砲丸を使ったトレーニングでは、私は前に投げるのが得意だけど、ハルカは後ろに投げるのが得意なんです。コーチも混じって誰が最初に目印を越えられるか競ったり、投げるスピードを競ったりしています。最高の時間です」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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2020年ドマジュリツェで練習後のシチャコバーと北口

ハルカの存在でチーム全体が育っている

 セケラークについて、「チェコの陸上連盟に所属していながら、日本人の指導にうつつを抜かしている」と、理解のないチェコ人から連盟に苦情が届くこともある。しかし、これにもセケラークは丁寧に説明をしている。

「日本人は時間を守るし、謙虚にコーチの言葉に耳を傾けるし、自分をどうケアするかという姿勢をハルカはチームに伝えている。彼女の存在でチーム全体が育っているんです」

2024.08.30(金)
文=梶原初映